デザイン思考から生まれる創造性:異分野から経営のアタリマエを見直す 平井康之氏②

「デザイン」という言葉は経営の世界でも使われてもいる。その本質はどのような志向にもとづくのか、「インクルーシブ・デザイン」といった考えをもとに企業や市民社会と幅広く関わっている平井先生にお話を伺った。

第二回 (2)デザイン思考から生まれる創造性

九州大学 芸術工学研究院 准教授  平井康之
専門はインテリアデザイン、オフィスデザイン、インクルーシブ・デザイン等。ダイソンを輩出した英国王立大学大学院修士課程修了。日本の民間会社でのデザイナー、アメリカのデザインコンサルティングIDEO勤務の後、現職。

インクルーシブ・デザイン

Q:先生のご専門のインクルーシブ・デザインについて教えてください。

インクルーシブ・デザインの祖であるロジャー・コールマン教授が、デザインは「単なる機能的な解決策ではない」と語った講演が印象に残っています。彼は、友人の車椅子の女性から自宅のキッチンの改造を依頼され、手がけることになりました。そして車椅子でも使えるように高さが低くて物がとりやすく洗いやすいデザインをしようと考えました。ふつうそう考えますよね。でもその女性は、「私がほしいのはそうじゃない。
他の人がうらやむキッチンがほしい」と言ったそうです。すなわち機能的な解決はもちろんのこと、かっこいい、他の人がすごいと見てくれるものを持ちたい。健常者と同じ感覚ということなんです。機能性だけだと、どうしても違うジャンルの人として見てしまう、そうではなく自分と同じように考えることが大事だと言うことです。インクルーシブ・デザインでは、アスピレーションのデザインとよく言います。アスピレーションとは、「熱い想い」という意味ですが、できるだけ深いニーズや価値観を掘り起こして、それを解決する、それがインクルーシブ・デザインの本質だと思います。
別の角度から言うと、デザインというのは、常に機能的に動いているものではなく、使っていない状態もデザインなんです。電子レンジだって、機能として使う時間は非常に限られていて、あとはインテリアの一部になっているはずです。

 

Q:デザインのプロセスや思考は、能率面と逆方向にも思いますが、いかがでしょうか。

今求められているのは創造性の能率であって、それを科学的、管理的側面だけで捉えると、ボタンの掛け違いが出るのではないでしょうか。より大きなイノベーションというのは、結果的に途中の細かい改善をすべて不要にするので、そういう意味の能率は非常に高いですよね。

リードユーザーという言葉があります。元々はマーケティングの言葉で、追いかける対象としての優れた人を表す言葉でした。しかしインクルーシブ・デザインでは、「利用できる・できない」の境界線のユーザーのことを指します。それはサービスなり機能から排除されている人々で、その人たちをどうやって境界線の内側にインクルード(含める)できるかを考えます。極端な視点から主流のデザインを発想することで、我々はこれまでにない新しい物の見方や考え方を得ることができ、新しいイノベーションを起こすことができます。アイデアは、デザイナーが必ずしも優れているわけではなく、素人が気づくこともあります。持論ですが、アイデアの前では皆平等であり、誰でもアイデアを出せるフレームや文化を作ることがクリエイティブのためには非常に大事になります。誰にでもクリエイティブな提案ができることを提唱しているのがデザイン思考です。
例えばIDEO社が、あるアメリカの大病院の看護婦のサービス改善において、ナースステーションの中ではなく患者の前で引き継ぎを行うように変えて、サービスが向上した例があります。人事などでも、打ち合わせのやり方一つを変えることによるイノベーションはあると思うんです。

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