予期しない活動や価値が生まれるプラットフォームのちから ―境界の設計、資源の持ち寄りが機能する地域づくり:異分野から経営のアタリマエを見直す 飯盛 義徳②

第八回 (2)予期しない活動や価値が生まれるプラットフォームのちから―境界の設計、資源の持ち寄りが機能する地域づくり

飯盛義徳(いさがい・よしのり)
慶應義塾大学総合政策学部教授 兼 政策・メディア研究科委員。佐賀県生まれ。専門はプラットフォームデザイン、地域イノベーション、ファミリービジネスなど。大学で新事業創造や地域づくりなどに関する研究・教育を行うとともに、各地域での実践活動にも携わる。佐賀にあるNPO法人鳳雛塾の理事長他、総務省ふるさとづくり懇談会委員などを務める。主著に『「元気村」はこう創る』(日本経済新聞出版社)、『地域づくりのプラットフォーム』(学芸出版社)ほか。

プラットフォームをつくることについて

地域づくりの活動で目指すべきことは、セレンディピティですね。自発的な活動が次から次へと出てくる。これを私は社会的創発―ソーシャルエマージェンスと言っており、ある面からみるとイノベーションと言ってもいいのかなという気がしています。

ではどうやったらできるのかというと、命令強制ではなく、プラットフォームをつくることによって、だと思っています。国領先生との共著で定義したことですが、プラットフォームとは「多様な主体の協働を促進するコミュニケーションの基盤となる道具や仕組み」であり、私はさらに「空間・場」を含めています。

プラットフォームを上手に設計すると多様な人が入ってきて、主体間の協働が活発になり、創発が起こる。キーワードは創発だと思います。その設計の要素としては、信頼・インセンティブ・役割・規範がありますが、私は設計のポイントとしては、強い関係性と弱い関係性をいかにうまく融合させるか。そのために効果的な境界をいかに設計するか、そして資源の持ち寄り、すなわちブリコラージュをどうやって実現するかだと思っています。

 

境界の設計とは

強い関係性と弱い関係性については、以前からネットワーク論で議論されています。、強い関係性、すなわち常に一緒にいる人たちのつながりは知識・情報を深く共有するのに役立ち、居心地良くて安心できる関係性です。他方、予期もしないことが次々おこること、新しい価値が生まれ続けること、ということには遠い。そのためにはネットワークの組み換えが常時起こるようにすべきなのですが、その一つが弱い関係性です。異質な、新しい情報が入ってくる関係性ですね。ただし、弱い関係性だけでは新しいものがすぐ生み出されることにはならない。どこかに信頼できる関係性が残っていないと無理です。

鳳雛塾でのネットワークの強さを研究したことがあります。「コアメンバー」である私と横尾はほぼ毎日コミュニケーションをとっており、「一般メンバー」という塾生たちとは月2回ほど連絡する程度です。加えて、「コア」と「一般」の間に「サポーター」という層がありました。元々「一般」なのですが、急にコミュニケーション頻度が高くなる人たちがいて、これが実は、新しく生まれるメカニズムだったんです。

たとえば、小中学校や他地域への広がりとなったプロセスは、情報はすべて一般塾生からあがってきました。やるかどうかはコアである私と横尾が決める。そして、やることを決めた、その一般塾生の人をリーダーにして動きます。その人がコアメンバーも、外部の人もどんどん巻き込みながら事業が生まれていく構造があり、それは違うプロジェクトでも同じメカニズムでした。

価値観を共有しなければいけないということがよく言われ、それは全く否定しませんが、全部一律ではないと思います。コアメンバー間は価値観を深く共有していますが、サポーターとなっているリーダーたちは、価値観ありきよりも、自身の関心、すなわちインセンティブがあることで活躍しています。地域のためにと思う人が集まるにこしたことはないですが、そこに固執するより、いろんなインセンティブを受け入れて、結果として同じ価値観や理念の方に向かえばいいと私は思っています。

また、強い関係性、弱い関係性の並存のためには、二律背反したアンビバレントな状態を解決しないといけないことが多々あると思います。すなわち境界をうまく設計すること―バウンダリー・パースペクティブ―がすごく大事だと思います。境界と言うのは内と外の区分けエリアですが、人工物です。強すぎもせず弱すぎもせず、内でもあり外でもある。どちらでもある自由な実践や思考を可能にするような、境界をつくらないといけない。

たとえば内と外の間に境界域というグレーゾーンをつくると、そのグレーゾーンのところに内部の人も外部の人も出てきやすくなります。実は縁側、軒先、借景のように、日本的建築は昔からずっとその要素を含んでいます。グッドデザイン賞をとった岩見沢駅では、勝手に駅の使い方が広がり、結婚式までやっています。設計者の西村氏に気を付けたことを聞いたら、境界と言われました。建築的な仕切りはあるが、中からも外からも、お互い何をやっているかがわかるようにするために、外のライトアップや窓際の看板などを取り払い、お互いの可視化を可能にしたそうです。また、年間数万人が利用する「芝の家」という地域の居場所では縁側をわざわざつくり、内外両方の様子が見えるようにしたそうですが、その境界設計、すなわち縁側がいい味をつくっています。実は、ヨーロッパの家は個々に独立していますが、実は広場に皆集まってくるんですね。教会、お店、役所、バス停もすべてこの広場周りにあり、井戸端会議もされる機会がある。今、居場所づくりが地域づくりの一つの取り組みになっていますが、その存在は大きいと思います。

 

持ち寄りの効果

もう一つ重要なのは、資源を持ち寄って運用することの効果です。佐賀の鳳雛塾と他の地域の塾を比べると、新しいことが次々と起こっているのは佐賀が多いんですね。形態はほぼ同じですが、一番違うところは、佐賀は持ち寄り型、他は行政などの事務局中心型のように思います。佐賀の場合は、事務局長は銀行からの出向、場所も当初は佐賀銀行、今は佐賀大学の脇教室を使わせてもらっている。様々なリソースの持ち寄りで運営され、各関係者が主体的に考えてくれている。資金不足からの行動でしたが、結果としてよかったと思っています。

すなわち資源の持ち寄り、持ち寄らせができて、新しい価値をうみだすことができる行動が大事で、「プラットフォーム・アーキテクト」として大事なのはブリコラージュができる人だろうと思っています。

 

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