生物としてのヒト:異分野から経営のアタリマエを見直す 長谷川眞理子氏②

このコラムコーナーでは、様々な識者に伺った世界観、イキイキ企業の紹介、最近の身近な変化に関する座談会記事等を掲載していきます。

第一回 (2)生物としてのヒト

人類学者 長谷川眞理子氏(総合研究大学院大学 教授)

現代社会の特有点

Q:精神疾患はどういったことが関係して起こるのでしょうか。

統合失調や鬱などの精神疾患は何が上手くいかないからメンタルヘルスの問題になるのかというと、自己の捉え方や自己制御が関係しているんです。
自己をどうやって制御、自己コントロールをどうやってできるか、他者と自己の関係をどういう風にコントロールできるか、自分というものが将来どういう風になるのか、それらはみんな自己というものに関わる脳の活動なので、そのへんが上手くいかなくなる事が、統合失調症や鬱、発達障害に関係しているという事です。
そういった障害が思春期に始まるのは、思春期に自己の拡張が起こるからなんです。子供のときに自分と他人は違うとか、自分は何が欲しいとか、自意識というものが出来てくるけれど思春期以降、大人になると、もっと広い意味で社会の中の自己や将来を見据えたときの今の自己像とか、友達の中での位置関係など、社会化した自己に作り変えられる時期なので、その思春期に齟齬があるとメンタル系に問題が出てくるのではないかという事です。

Q:「組織」という点で、現代社会に特有な事象は何かありますか。

現代はいろんな変化が激しいですよね。テクノロジーの進歩も速いし社会全体の流行やライフスタイルや価値観もすごく変わるから、そこで外的な環境がどう変わるか、個人が内部で何を考えるかっていうことがずれたりしてくるのだと思います。江戸時代にしても狩猟採集時代にしてもあんまり外的環境が変わらないから、日々何か学んでいかなくても、何十年と同人が積み重ねてきた事が相変わらず使えるわけですからね。
あと、現代特有の現象としては、社会が複雑になり細分化されて、やることがどんどん増えていることですね。また、細分化されるとともに組織が大きくなると、その組織が大きいことに付随する別の仕事が出てくるんですよね。
スケールとともに、やるべきことが増えて細分化する、結局今みたいになると、全体がよく分からない状態で自分のやったことがどんなメリットがあったのか結局良くわからないという事が起こってくる。組織のスケールとともに、いろんな役割・雑用、それまでには無かった職業、無かった問題が指数的に増えるのではないかと思います。

Q:生き物としての人間はそもそも変化というものを好むのでしょうか。

私は好むと思うんですよ。変化を好むというより生き物としての人間はものすごく探究心が強い。人間はもともとアフリカにいて、1万年もしないうちに全世界に広がったじゃないですか。別に混みすぎて住めなくなったわけでは無くて、誰も行ったこともない前人未到のところに次から次へと向かい、宇宙まで行ってしまったんですよね。科学的探究ってそれだと思います。好奇心。みんな知りたい、行きたいんですね。人間は新しいことが好き、変化が好きというか、見たことをないものを見に行きたいという気持ちが強いのだと思います。

Q:人間の、変化が好きという特性は脳化学的にも言えることなのでしょうか。

今、新規性追求がどういう脳の基盤があるのか分かってきて、別に一つの脳内基盤で決まっている訳ではないのですが一つ非常に大きいのが、ドーパミンの受容体のDRD4、リセプターの4ってい遺伝子が関係しているんです。DRD4の多型の中で繰り返し配列が多い人は新規追求が強く、少ない人たちはあんまり新しい事が好きではない傾向にあるんですね。
人類学的に面白いことは、多型が維持されている事です。長い進化の過程で、時に応じてイケイケどんどんが良い場合も、あまりいかない方が良い場合もあって、メリットデメリットがあるので、結局いろんなタイプの人が残っているという事です。

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※この記事は「KAIKAスタイルマガジン 第1号」(2013年4月)より転載しています。肩書き・記事内容はインタビュー当時のものになります。

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