創造性のある組織関係の基盤にはシンクロナイゼーション(同期現象)があった:異分野から経営のアタリマエを見直す 渡邊 克巳③

第七回 (3)創造性のある組織関係の基盤にはシンクロナイゼーション(同期現象)があった

渡邊 克巳 先生
東京大学 先端科学技術研究センター認知科学分野 客員准教授
早稲田大学理工学術院 基幹理工学部表現工学科 教授
カリフォルニア工科大学にて博士。専門は認知科学(知覚、感覚間統合、発達、注意、眼球運動、社会的認知、意思決定)、神経科学(動機、報酬、大脳基底核、脳磁界、発達障害)

 

変化や創造性にむけてリーダー観の転換が大切

 

-そうした考え方をベースに、組織をみていく必要があります。

 

(渡邊)こうしたメカニズムがあることが分かっていると、「命令系統をこうして、こういうリーダーを据えて、こう管理する体制だからうまくいくはずだ」という既成概念から脱却できるのではないかと思うのです。

例えば、学校の先生達に「自分が生徒から影響を受けていると思いますか」と問うと「はい」と答えると思うのです。しかしその内容を問うと「生徒のこういうエピソードに私は感心しました」と、まだ上から目線になっている。先ほど言ったようなもっと根本的な影響がまだ分かっていない、やはり想定している情報の流れが上から下なのです。

企業におきかえると、リーダーシップが重要だといわれますが、その時のリーダーの素質は、どれだけ影響力があるかどうかだと考えられがちですが、逆にメンバーがリーダーに対して何らかの影響を与えられることも重要だと考えられます。

 

-認知する側がいることによってリーダーになるという。

 

(渡邊)ええ、つまり、頂点にいるとか、リーダーであるということは、本当はその人が何らかの影響力を持っているということを恐らく意味しないのです。純粋にそこにいるというだけの話で。

 

-影響力を持っているという、主体に属性を帰属させるような言葉の使い方自体が認識を誤らせるのですよね。

 

(渡邊)そうですね。組織構造は必要だと思います。よくある間違いは、組織を全部フラットにして、フラットに議論をすればうまくいくと考える人が結構いる。最近よくあるオフィスのオープン化やフラット化ですが、なかなかうまくいかない。

構造は重要なのです。ただ構造は基本的に静的なものであり、その中にある相互のダイナミクス、あるいはその影響力の変化は、矢印を引けないものだろうと思います。影響力の流れはその場その場で変わってくる。

そこを勘違いしている人が多い。例えば会社が変わるには、上から順番に落ちてこなければいけないと思う人たちは結構いますし。

 

-そう思う人たちは、そう思うこと自体で、そういう影響力を上に与え、また自分たちに枠をはめているのですね。

 

(渡邊)実際に本当に変わる会社には、変わるための下からの影の影響力というか、潜在的な力の流れがあり、変わる方向に収斂していくのではないでしょうか。

これを制御できるかどうかは分からないですが、きちんと理解することが重要だと思います。

 

-今のお話は、シンクロの話にもつながります。

 

(渡邊)はい。人がうまくいっている状態が、情報の受け手の方が与える側に対してどれだけ影響を与えられるかに依存すると仮定すると、実際に2つがシンクロ(体が同期)するというレベルでのいい雰囲気になる状態を考える時には、重要なのは受け手であって、出し手ではないという話です。

 

-そうしたリーダーシップ現象がうまれる関係性をつくるにはコミュニケーションが重要ですね。

 

(渡邊)はい。教育でもそうですが、「君はこれをやりなさい」とか「君はこれをやった方がいい」と言うのではなく、「いろいろなのをやってみたら」「君、これ、すごいからやった方がいいよ」「ちょっと変えた方がいいんじゃないの」「君、才能あるから他のもやってみたら」といったように、言葉そのものだけでなく、声のトーンや抑揚などを含め、オープンで、無理やり押しつけるのではない、醸し出す感じが重要になると思います。

それによって、この先生の下ではいろいろなことをやりたいとか、この先生の下ではこれに集中してやりたいという関係になってくる。

 

-そこはチームや組織としての創造性にもつながりますね。決められたことをただこなすだけでもなく、また、好き勝手にするでもなく、チーム・組織としてどう創造的であるかが大切になっています。

 

(渡邊)それは教育の現場でも似ています。「君たち、何を教えてほしい」と聞いて、その通りに教えるのも、また、教師が教えたいことを教えるのも、教育ではない。

組織のリーダーでいうと、そのような雰囲気を社員やメンバーから読み取れているかどうかだと思うのです。

そこをうまく嗅ぎ取ることができるのが、多分、創造性のある企業だったり、組織だったりすると思います。

 

創造性を「複数の脳達」にタグ付ける発想が必要

 

-それができる場合と、できない場合では、脳の使い方が違うのでしょうか。

 

(渡邊)個人の脳の使い方ではないと思います。例えば、ものすごく嗅ぎとるのがうまい先生がいたとしても、受け手が駄目ならうまくいきません。

脳や特定の能力を一つの個体にタグ付けようとする発想だと誤謬が生じるのです。

組織としてのパフォーマンスや能力や創造性や価値のようなものは、あくまで関係性の中にタグ付けする発想の転換が必要なのです。

脳の働きであることは間違いないですが、一つの脳だけで創造性うんぬんではなく、脳が二つ以上、三つ以上あって初めて出てくる働きのような気がします。

 

-ついつい我々は、能力や才能を1人の人にダグ付けしがちですが。

 

(渡邊)それは可能ですよ、不可能ではないですよ。しかし、可能なだけであって、それは実社会では全然役に立たないのではないかと思っています。その人がどういう能力を持っているかということは、あくまでそういうテストの点数を付けることができるというだけの話であって、ダグ付けに価値があるかどうかというのは別の話ですよね。

既に発生した過去の状況や結果の要因を、特定の個人の能力や才能といった属性だけにタグづけることで、その個人が未来に似たような能力や才能を生み出せるという仮説それ自体が役に立たないのではないでしょうか?

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