Vol.10 公共交通 ~コラム:技術者の視点で世の中を俯瞰~森田さんに聞きました

Vol.10 公共交通

私は、乗り物が大好きです。それが極まって自動車関連産業の末端に携わってまいりました。今日は、その中で公共交通について少し考えてみましょう。ただし、公共交通を考える上でも歴史に学ぶことが大切です。公共交通は、市場主義の経済原理に従い歴史的に自然に最適化されてきたように感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかしながら現在各国別に大きな違いがみられるその理由をきちんと紐解いていくと意外な要因が見え隠れすることがわかります。また現在の公共交通の動きをそれになぞらえると将来姿がおぼろげに見えてきます。

まず、公共交通の世界での現状を理解するためには、社会インフラの発達が成熟国と新興国の間で単純に成熟国を新興国がトレースして追っかけているのではないことを思い出す必要があります。その結果、現在、西欧型成熟国とアメリカおよび新興国の間でまったく異なる公共交通の姿が出来上がってしまいました。それをなぜそうなるのかを順番に紐解いていきたいと思います。

すごく当たり前のことなのですが、経済発展すると人口の都市集中が発生します。即ち都市化ですね。人口密度の集中した状況で経済活動のための人の移動を円滑に確保しようとすると当然ながら徒歩では不十分で、何らかの機械的移動手段(=モビリティー)が必要となります。現在の成熟国においては、それらの都市化とモビリティーへのシフトが19世紀の半ばまでに成立しました。

その時代のモビリティーで一番移動効率が高いものは、“鉄道”です。蒸気機関車ですがほぼ発明当時でも約60km/hrの最高速度と100名以上の乗客を安定的に確保できました。これは、馬車の30km/hrでせいぜい10名程度の乗客と比べるとまったく比較にならない革新的なモビリティーといえると思います。こうして移動の中心は、“道路”から“線路”にシフトしたわけです。

他方、中世以来整備され続けてきた道路とは異なり線路は、もちろんその時点では存在しません(一部馬車鉄道だけがインフラとして活用できました)から、鉄道をモビリティーとして採用するためには、線路という社会インフラを整備する必要があるわけです。この社会インフラの整備が産業革命で都市化が進行するのと同時に発達してきました。ロンドンに代表されるヨーロッパの各都市の現在の地下鉄/路面電車/高速鉄道の組み合わさった現在の姿は、このようにして出来上がったものだと理解できます。これらの国では、この後20世紀に入って内燃機関(エンジン)の発明による、自動車産業の隆盛を迎えた後も基本的にインフラとしてはこれらの鉄道網が機能しているのは言うまでもありません。

他方、新興国を見てみましょう。インドネシアに代表される新興国は、この都市化とモータリゼーションが一気に来てしまいました。成熟国のように都市化-鉄道インフラ-モータリゼーションの段階を踏む間もなく便利な自動車が大量に普及してしまいました。その結果、残念ながら各都市においては社会機能がマヒするほどの渋滞が発生してしまいました。これらの都市は、実際行ってみるとわかるのですが都市高速やメインの大通りの整備、さらに信号システムなどの整備をかなり着実に行っていますが、鉄道という大量輸送機関を欠いているためどうしても交通をさばききれず、結果として深刻な渋滞が発生してしまします。もちろんJICAや世銀の融資を活用して各国とも先進国型の高速鉄道を目指した公共交通の充足に奔走している状況ですが、すでに都市化が進行している状況で土地の収用に大変な手間がかかり、現実的な充足は容易ではありません。インドネシアのジャカルタの地下鉄もやっと都心の工事が始まりました。一方モノレールの方は推進母体が破産して工事中断のまま放置されています。

それでは、もはやこの社会課題には解がないのでしょうか。幸いにして必要なところには工夫と解決が必ず出現します。これらのアジアやそのほかの同様のモータリゼーション発展中の国の解は、“BRT”を中心としたこれまでにない交通システムの導入にあります。BRT=Bus Rapid Transit System とはあまり聞きなれないと思いますが、新興国の次世代の中間公共交通としてこれほど普及しようとしているものはありません。中国を含む世界の今後の公共交通整備計画路線の実に80%以上はBRTを選択しています。それでは、BRTはなんでしょうか?またなぜBRTが選択肢なのかを考えてみましょう。

CIMG4477BRTと呼ばれるものは、簡単に言えば道路を一車線区切ってバス専用レーンにしたものです。特にジャカルタ等で見られるものは、フェンスで区切って車線を区分しています。(ジャカルタのシステムはJICAの援助で日野自動車の車両を用いた日本発の物です。)これにより普通のバスと異なり一般の乗用車の渋滞に巻き込まれることなく運行が成立します。つまり公共交通の定時性と輸送力を確保できることになります。

また、幸いにして増え続ける乗用車のために幹線区間の道路はかなりの範囲で片側3車線以上あるのがこれらの国々の特徴です。即ち、BRT整備が用地買収なく成立可能である素地を示しております。これらの条件から、BRTの整備費用はモノレールやLRTの整備費用の数分の一で済むことが知られており、即効性のある対策が急務であるこれらの国々の第一選択として選ばれているのはもっともだと思います。皆さんのなじみのないBRTが専用軌道を疾駆している姿は、モビリティの姿が単一の流れではないことを象徴していると思います。私もジャカルタのBRTはよく利用しますが、快適で定時性の高いTAXIなどとは比較にならない快適な交通手段だと思います。

ところがこのBRTにも弱点があります。それは、“故障”です。鉄道と同じで運航中の一両が故障した場合後続車は占有路線区間では追い抜きが不可能ですので運航路線全体がマヒしてしまう弱点があります。(私もまさに遭遇いたしました。)このような弱点を、システムで解決していくことが望まれる姿だと思います。日本の地下鉄等の都市交通システムは、故障しませんよね!

また、さらに興味深いのは、このようにしてアジアを中心にして普及したBRTが成熟国に還流しつつある現状です。日本でも、震災後の気仙沼周辺の鉄道がBRTで仮復旧したのはご存じだと思います。これ以外にも都心の新たなバリアフリー交通システムとしても注目されております。もしかすると、このアジアで普及し育った新たな流れが日本の特に地方交通の姿をまた違ったものにするかもしれないと思うとわくわくしますね!

このように、日本で私たちが想像する以上に地域別のモビリティの解は多様です。ぜひ出張などで現地に行く際には、現地の市民の皆さんの生活スタイルが移動を含めどのようなものであるのかを観察してみてください。TAXIや社用車で移動して、日本食ばかり食べていては真の課題を見過ごしてしまいます。おそらくその課題こそがイノベーションのネタですから。

次は、お待ちかねの乗用車ネタで行ってみましょうか!次回をお楽しみに。

森田浩一氏

大手タイヤメーカーにて 高分子化学分野の技術者として実績を重ね、研究所長、役員などを歴任。
現在は大手音響・楽器・電子部品メーカーにてイノベーション推進を担当する。

“なぜだろう”の問いかけをキーワードに多様な方向性で情報を集め、一歩違う視点で常に考える。
猫をこよなく愛するハードロッカー。

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