Vol.13 スピーカーとイヤフォン ~コラム:技術者の視点で世の中を俯瞰~森田さんに聞きました

Vol.13 スピーカーとイヤフォン

今回も前回に引き続きオーディオネタを手始めに少し広がりを持ってお話を示したいと思います。

前回D級アンプが効率と音質とコストでイノベーティブな存在だということをご紹介いたしました。一気にアンプのエネルギー変換効率が90%を超えるのですから大変な進歩になります。ところが、オーディオの効率での最大の課題はここにはありません。最大の課題は、スピーカーにあります。スピーカーのエネルギー変換効率は高々0.1~1%に過ぎません。アンプの効率がさらに言えばエネルギー変換効率だけではなく再生周波数特性についても最大の課題は間違いなく スピーカーです。アンプの増幅時の周波数特性はトランジスタアンプが出現した時点から測定周波数特性としてはほとんどすべてのアンプで10Hz~30KHzを達成していました。人間の可聴範囲が20Hz~20KHzですので最近はやりのハイレゾ対応を前提としても50年前には十分な性能確保ができていたということが言えます。

ところが、スピーカーについては、そうではありません。スピーカーは、皆さんがイメージされるように写真1のようなコーン型の構造を有します。ボイスコイルが紙製のコーンを振動させて音を得る方法です。ダイナミック型と呼ばれるこの形態は今から90年くらい前にGE社が発明して商品化していらいほとんど変化しておりません。したがって出現以来の課題をそのまま引きづっているといっても過言ではありません。12cm程度の小型の標準的なスピーカーでは100Hz~15KHzが限界です。特に決定的に低音が出ません。これを20~20KHzに拡大するためには、30cmのウーファーをベースとした巨大な3way(スピーカーをレンジ別に3個使った)システムが必要になります。幅50cm高さ1mの巨大でかつ数十万円もするスピーカーを1セット自宅における人はそんなに多くないと思います。この課題に対しての答えは残念ながら現在のところありません。ピエゾを用いたシステムやコンデンサーを用いたスピーカーが出現しましたが、どのスピーカーもダイナミック型のスピーカーを超えるものではありませんでした。この分野ではイノベーションの出現が待たれるところです。

しかしながらここで視点の転換をしてみましょう。スピーカーの目的は、音楽を人の頭に伝えることにあります。それでしたらほかにも手法があります。ヘッドフォンやイヤフォンはいかがでしょうか。特にイヤフォンは非常に少ない電力量で大きな“音”(人が感じる音のレベル)を得ることができます。再生周波数レンジも非常に広く5~30KHzを再生レンジとして提示しているイヤフォンは少なくありませんしお値段の方も5千円以下で十分入手することができます。最近はやりのハイレゾオーディオがイヤフォンを中心に展開されているのはこのような背景によります。

さらにこの分野においては皆さんが気が付かない大きなイノベーションがありました。ネオジム(Nd)マグネットの導入です。磁石の素材にネオジムを導入することにより従来の磁石より圧倒的に大きな磁力を得ることができるようになりました。このネオジムを活用した高磁力化の技術は、ハイブリッドカーのモーターを中心に、性能とコストの双方で大きな進歩を遂げました。その技術が多方面に応用され、そのすそ野の一部にイヤフォンの世界があるわけです。イヤフォンの磁石は磁力が大きければ大きいほどボイスコイルの駆動力が得られます。スピーカーに比べるとサイズの制限が大きいためその御利益は拡大して“音”の結果に反映されます。そのためネオジム磁石をイヤフォンに活用した場合、音量と音質の両面において著しい改善が得られます。(余談ですがネオジム磁石かどうかはパッケージに記載されることが多いので皆さんもイヤフォン購入の時には参考にされることをお勧めします。)

これらの技術によりスピーカーではなかなか難しかったハイレゾの世界を非常にお手軽に体験できるようになりました。さらに最近渋谷には、ヘッドフォンのディスコなるものがあるようです。ヘッドフォンをした静かな空間でみんなで“のりのり”というのは少し奇妙な気もしますが、音楽を大音量で楽しむという目的に対しては非常に効率的な解だということもできます。

もうお気づきになったと思いますが、このように機械を人類が活用していくところで課題になるのは、人が機械と触れ合う部分にあります。別の呼び方で言えばマンマシンインターフェースの課題ということになります。このような視点で周りを見回すといろんなところにこのインターフェースの課題が散見されます。いずれも何荒かの感性を介しますので、アプローチによっては大きな価値を生む可能性があります。

最も身近な例で挙げますと、キーボードやマウスについても同じことが言えるでしょう。こちらは、機械から受け取るのではなくて機械に伝えるためのインターフェースになりますが、これらは非常に非効率で煩雑なものがあります。最近は、音声入力なども出てきて多様化されておりますが、事務所でなにかつぶやいていると迷惑になってしまいますので、自分の個室を持ってる人ならとにもかくにも、一般的には実用的とは言い難いものがあります。また、特にマウスは画期的ではあるものの感覚的に細かい作業が苦手で、正直手袋しながらギターを弾いているようなもどかしさを感じてしまいます。

これらについての最終回答は、攻殻機動隊のように電子信号とニューロが直接コンタクトする世界となるのでしょうけど、そう簡単ではありません。山海教授のサイバーダインのシステムなどがその先鞭を担っていますので期待できるものがあるといえます。

このようにマンマシンインターフェースが明らかに課題でありそこがイノベーションの鍵を担うのは明白です。実はこれが自動車の運転についても当てはまります。これについてはまた次の機会に書きたいと思います。

写真1)スピーカーユニット:オンキョー12cmのコンパクト標準型 自作用のストック品です。

写真2)イヤフォンコレクション:いやはやイヤフォンは当たり外れの大きい商品です。こんなに買ってしまいました。いずれも個性的で違った音がします。マンマシンインターフェースの趣味はやめられません。ちなみにあんまり高いのはありません。

写真3)EP-630:BESTはCRIATIVE社のEP-630です。いわゆるわかりやすいドンシャリサウンドです。1500円ほどで入手可能です。

写真4)トラックボール:私はマウスを使いません。トラックボールはレーダー管制用に開発された合理的なインターフェースとの説があります。愛用です。

森田浩一氏

大手タイヤメーカーにて 高分子化学分野の技術者として実績を重ね、研究所長、役員などを歴任。
現在は大手音響・楽器・電子部品メーカーにてイノベーション推進を担当する。

“なぜだろう”の問いかけをキーワードに多様な方向性で情報を集め、一歩違う視点で常に考える。
猫をこよなく愛するハードロッカー。

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