東日本旅客鉄道株式会社 東京支社 事例にみるKAIKA経営の実践

KAIKA Awards 2015ではKAIKA大賞2組織、KAIKA賞6組織、特選紹介事例3組織を選出いたしました。
こちらのコラムでは順次事例をご紹介しています

KAIKA賞 東日本旅客鉄道株式会社 東京支社

「職場風土変革プロジェクト」

【取り組み概要】

2012年に行った職場アンケートでは、「仕事に前向きでない人が多い」、「仕事に誇りを持っていない(人がいる)」というネガティブな回答も多くみられた。当時の担当部長を中心に、指令員の日々の努力が認められる状況、言いたいことをいい合える土壌・風土感が必要であるという認識も高まり、チーム力向上のために設置されていたJR型CRM推進プロジェクトチーム(以下、CRMプロジェクト)を中心に職場風土変革に着手することとなった。2013年にはプロジェクト名を「職場風土変革プロジェクト」に変更し、職場風土変革のための各種施策を推進していった。それまでもCRMプロジェクトが実施していた着任時やフォローアップの研修などを通じて、社員の意見は定性的には把握されていたが、アンケートによって数量的に示されたことで活動が本格化した。おもな活動は、職場スローガン、各種研修、職場環境の見直し、ほめる運動、見せる化、気づきと刺激による職場風土変革定着である。

まず職場スローガンでは、従来から所属する運輸車両部としての行動指針はあるが、指令業務の特色を生かしたもので、かつ自分たちの言葉で自分たちが進むべき方向を明確にすることにこだわり全社員から職場スローガンを募集した。「 安全確保と輸送品質向上でお客さま視点を磨き続けよう~すべてはお客さまのために~」、「世界一のオペレーションで首都圏の安全・安定輸送を守ろう!~変わらぬ使命を果たし限りなき前進を~」という2点が選出された。その理由は、駅員や乗務員などに対して指示を出す業務特性上、直にお客さまに接することがないので、「お客さま視点」、「すべてはお客さまのために」をより意識した内容だからである。翌年の職場アンケートでは、90%以上が「指令の目標や自分の役割を理解している」と回答するに至った。

研修面では、知識教育だけではなく、チームマネジメント・指導方法やコミュニケーションなどについて強化を図り、中でも指令長研修では会社幹部による特別講義を実施し、少人数で幹部から経営方針についての話を聞く機会を設けるとともに、人材育成方法、安全意識の向上、職場づくりといったテーマを取り上げて他企業見学を実施している。これにより新鮮味、視点の変化、それによる新たな気づきといった効果を得ている。さらに職場環境の見直しでは、休憩場所をよりリラックスできる環境への改善や、また指令業務における作業ダイヤの見直し、休憩が取りやすい(気持ちを休められる)仕事の流れになるように業務シフトを工夫した。

天候不良・人身傷害事故といった、通常業務とは異なる状況での対応を迫られた時に、組織階層の原則の下、情報を一元化して、長が責任を持って判断をして、指揮命令に従って行動しなければならない。現場では時々刻々と事態が変化していく中、瞬時に的確な判断と対応、即断即決が求められる。指令員は線区や業務ごとに役割分担をしていることから、指令は、特にトラブル発生時において最大限のチームパフォーマンスを発揮して様々な手配を行うことで、お客さまにとってよりよい輸送サービスを提供することが求められる。お客さまによりよい輸送サービスを提供できたと考えられる事象を取り上げ、関わった社員の顔写真やコメントを加えてポスターを作成し、指令室内に掲出している。またインターネット上でのお客さまの声やつぶやきを抽出したものを掲載することにより、手配に対するお客さまの反応が見えることで、手応えややりがいを感じられることが増えてきた。

また、好事例に関わった指令員全員に褒賞を行うことでこれまで褒められる機会が少なかった新人や経験が浅い指令員のモチベーション向上がはかられている。職場間の情報共有や勉強会も積極的に行う風土に変わりつつある。社内広報誌に、指令室・駅・乗務員区・車両センター・グループ会社等との連携をテーマにした「みがく」というコーナーを設け、連携によって成功した事象と成功に至るまでの連携を意識した動き、努力、仕事への思いなどを紹介していくことなども「見せる化」の一助となっている。

これらの活動により、「まず、やってみよう」を合言葉に新しい手配に挑戦するという行動が数多く見られるようになっていった。そして実現した数々の従来にない「度肝を抜く」手配が社内で認知され、社内表彰制度で2013年度サービス品質優秀賞(社長表彰)を受賞している。

KAIKAポイント

仕事で結果を出していくためには、戦略や組織そして人・物・金などの経営資源が必要であるが、そのなかでも個々人の意識面に働き掛けていくことの重要性はいうまでもない。人の意識や感情は、変化しにくいものであり、固まった常識となる場合もある。その積み重ねが職場風土を構築しているので、組織を変えるには、人に働き掛けていく必要性がある。

本事例は、職場風土を変革することで、「やったことがない」、「できない」といった自分たちの常識を打ち破り、「まずやってみよう」を合言葉 にして、三現主義(現地・現物・現人)で、指令の 使命である品質の高い輸送サービスを提供することをねらった取組みである。その最終の目標と使命は、輸送サービス品質を高めるということであり、「職場環境アンケート」を軸に、職場の現状を把握し、課題を抽出、施策を検討・実施し、効果測定するというサイクルを回している。このような仕組みを職場に浸透させ、継続的に、高い輸送サービス品質を目指していくことが取り組みの核の部分である。個人のやる気を引き出し、組織としての知恵を表面化し、顧客への還元を図るという一連の流れを生み出すことに成功している。

<本事例を取り上げた背景…審査委員会コメント>

世界一と言っても過言ではないスケジュールで運行管理を担う組織として、大変に高い責任感と強いプレッシャーを日々感じる職場環境のなか、できて当然と見られる業務特性もあるのが同部門の特徴と見られる。今回の取り組みは、そうした長い歴史とさまざまな技術的知識・経験に基づく組織風土(職場雰囲気)を変える努力を、世代を超えて実施し、その具体的効果が認識されている点で注目に値する。とりわけ、「相談しにくい文化」、「ほめられることのない文化」を、「チームワークが機能する文化」、「ほめられる文化」、「新しいことに挑戦する文化」、「振り返り、知識を共有する文化」に変化させており、また、その組織風土の変化が、運行管理における具体的成果として現れている。比較的若い世代を中心に上司・部下、世代を超えて職場全体として取り組んでいることも良い点として付記できる。

また、この取り組みは組織全体の方針(お客さま志向)と整合しており、個々人の意識(誇りを持つ、柔軟にチャレンジする、等)と組織の文化(助けあう・褒め合う、等)を変えて、結果として事業面での成果(折り返し運転の実施、等)につながり、その成果は他社との連携も含め、インパクトが広がっている。

ストレスが多い職場ではオペレーションの目的化がありがちだが、「お客さまのために」という本質的な目的を浮かび上がらせた点が注目される。まさに組織のソフト面であるミッション再定義や価値観の共有、意図的に風土や関係性を改革することで、事業や社会への好影響を生み出している活動であり、難しい使命を持ちながら、前例踏襲を超えた顧客志向のソリューションを次々生み出している点が素晴らしい。

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