株式会社VSN  事例にみるKAIKA経営の実践

KAIKA Awards 2015ではKAIKA大賞2組織、KAIKA賞6組織、特選紹介事例3組織を選出いたしました。
こちらのコラムでは順次事例をご紹介しています

KAIKA賞 株式会社VSN

「VSN中期経営計画(2011-2015)~新しい事業コンセプトの実現に向けて」

【取り組み概要】

そもそも人材ビジネスには、一般派遣、紹介予定派遣、HRソリューション、人材紹介、アウトソーシング、 特定派遣などがあるが、VSNは、主に後者の2つの領域をカバーしている。エンジニア派遣事業や開発請負を行っており、派遣のなかでも、正社員としての常用雇用形態をとっており、派遣先企業との契約期間と派遣元 企業の契約期間とが紐づく登録型の派遣とは異なる。

働くものにとって、手に職をつけて専門的に働きたい、期間を限定して働きたい、一つの職場や会社だけで はなく複数の会社を経験したいなどと考えるならば、一つの会社だけで自らのキャリアを積極的に設計するには困難な面もある。そこで多様な働き方を考えた場合、その選択肢の一つに派遣がある。キャリアアップやワークライフバランスを考えて仕事・時間を選択できるという意味でワークシフトにも貢献する働き方でもある。また企業などの雇用側にとっても、業務量の変化や技術革新などに積極的に対応するには、派遣を活用することは有効な施策である。

しかしながら派遣されたエンジニアが派遣先で業務を行っていく中での課題もある。高い技術を保有し、発揮したとしても身分は派遣であり、開発の主要なキーとなる部分には携われないケースもある。技術専門性は 仕事によって高められていくものであり、技術力向上、ビジネス・スキル取得に限界もある。特定の派遣先で永続的に仕事するわけでもなく、契約期間が満了すると、別の派遣先で働くことになる。技術力・専門性だけではなく適応するための能力が求められる。そして派遣元の会社との関係が曖昧かつ希薄になり、十分なフォローが受けられない可能性もある。まさに派遣の特性としての課題でもある。

VSNでは2011年から派遣先にてバリューチェーン・イノベーター(以下、VI)活動を行っている。派遣社員 は指揮命令権が派遣先にあるため、指示されたことだけを行い、範囲以外の業務に干渉せず、派遣先の組織に 対しては第三者的な立場であることが多い。いわば契約業務を粛々とこなすことを求められ、そのことが仕事であるというみなされ方をすることが多い。そして派遣エンジニアも個人で技術力やビジネス・スキルを高めることを重視している傾向もある。ただ派遣先で必ずしも力を発揮できる訳ではない。それは顧客の真の課題に向かい解決策を提示し実行する機会が通常の業務では、得られにくいという派遣の業務特性に帰結する。

VI活動では積極的に派遣先の組織の中に入り、営業担当とも連携して、自分の会社と同然に改善活動を行う。①現場エンジニアが日々の業務を通じて課題を見つけ、さらに定量的情報を収集し分析、②そこから本質的課 題を見つけ、効果的な解決策を検討、③問題と解決策、活動計画やそれによって得られる想定効果を含めて提案、④派遣先担当者との合意により、VSNのエンジニアが派遣先の関係者と共同でプランを実行する。前述し た“指揮命令されたことだけを行う”のではなく、自身の能力をいかんなく発揮し新たな価値を創出することで、組織として信頼を勝ち得、エンジニアの業務の幅を広げることやレベルアップへとつながる。さらに顧客から の感謝の言葉は個々人の高いレベルの働きがい、そして誇りへとつながっていく。このようにVI活動はエンジニアの能力を高く発揮できるようにする組織的な仕組みである。

VSNは、以下の3つのビジョンを掲げる。「“バリューチェーン・イノベーター” となりサービスを革新する」であり、「高いレベルの働きがいを実現する」、「技術者派遣業界再編の核となり、業界の社会的地位向上に貢 献する」。現在は世界的人材ビジネス大手アデコグループ各社の中でも好業績をあげるVSNであるが、人材派遣ビジネスの浮き沈みを経験している。2006年には単独で上場したが、2008年のリーマンショックの影響で、 契約更新が滞り、派遣率が落ち込み、社員の約半数が待機する状況となったことがある。

そんな中、リーマンショックの中でも派遣契約が継続したエンジニアの行動や能力などに着目した結果、派 遣先の評価軸が一般的に言われている業界の常識と違っていることが分かった。専門分野の高い技術力を持っていることが何よりも重視されると想定していたが、厳しい状況の中でも契約が更新されるエンジニアは、高いビジネス・スキル(コミュニケーション力、課題発見・解決能力、マネジメント能力)を発揮し、派遣先で様々な業務改善を行っていることがわかった。顧客が手放したくない何かしらの力を保有し発揮しているものが、本当に求められるエンジニアの姿なのだと実感できたという。エンジニア派遣事業の中で、どのように差別化を図り、付加価値を生み出すことができるかが見えてきたのだ。そこでチーム単位で派遣先の業務改善、コンサルティングを行うサービスが生まれた。事業そのものや研究開発のプロセスまでをも変えていくパートナーとしてのバリューを提供したサービスである。このことは、顧客から、「こんな取り組みをサービスとして行う派遣会社は見たことがない、こんな提案を組織的にもらうと思ったことがなかった」との評価も得ている。コンサルティングとは異なり、日々顧客と共に働き、組織内コンフリクトなども経験するなかで現場志向 の課題解決を帰納と演繹の両方から、外部視点、そして経営の視点もふまえて、改善提案することが強みとなっている。こうした継続活動の結果、顧客の反応が変わり、VSNは単に人を出すだけでなく、課題発見してどんどん提案し組織に変化を起こしてくれる組織だということが理解されてきた。他社の仕組みを知り、顧客とは異なる着眼点で見ることができる、さらに現場サイドからでないと気づけない点を提案できることも強みである。また部門をまたがるバリューチェーン上の課題解決を提案できるのがVIである。

VSNの考える理想のエンジニア像は3つの役を持っている。一つめは「エンジニア」、二つめは「ファシリテーター」、三つめは「プロジェクトマネジャー」であること。コンサルタントは、顧客の経営課題を発見して改善提案して役割を終える。VSNはそれと同時に、顧客にすら見えにくい問題に気づき、その解決策を評価指標まで添えて顧客に提案し、承認されるとチームで実行し、高い品質のサービスをデリバリーし、結果を定量指標で評価するところまで行っている。提案や改善活動をチームとして行うため、派遣先のコア部分に関わるこ とも増え、顧客との関係が濃く深く長くなって、WIN-WINな関係を構築している。

本事例は、派遣業界のブルーオーシャン事例のひとつと考えられる。レッドオーシャンとは同一サービスの提供であり、価格競争である。その競争に陥らないために、組織的人的資源を活用した事例と考えられ、個人だけではなく組織としての知恵として成立させることで、模倣困難性が高い水準にまで仕上げつつある。当初の業界の戦略キャンパスとしては、「技術力」・「価格」・「適時」・「信頼性」・「コスト削減」などであったろう。また他社でも当然改善提案などは行っているが、そこに「事業課題発見」・「部門横断課題」・「人的課題」・「人 間性」・「組織力」などの要素を加味することで、競争の質を変質して、価格競争やサービス競争に巻き込まれず、 価値を生み出し顧客との関係性を強固にする取り組みとなっている。

【KAIKAポイント】

新たな事業コンセプトに基づく「バリューチェーン・イノベーター(以下VI)」の活動は、業界を取り巻く環境が右肩上がりの時代だけではなく、リーマンショックの荒波をVSNが超えてきた背景もあり、業界全体の地位向上にも意識が及んでいる。社員、組織(ビジネス)、業界のありかたや社会性の改善にまで影響が考えられる活動である。

派遣社員といえば、派遣先から指揮命令を受けて、決められた範囲での業務活動を行うだけの存在であると みなされている面があるが、VSNでは派遣社員が主体的に顧客の課題を見出し、提案する活動を続けている。その活動は、エンジニアの能力の向上や、働きがい・誇りをうみ、自己肯定感を高めることとなっている。顧客への新たな価値提案は、当社のビジネスモデルとして売上髙や利益額の向上につながっている。また派遣業界全体の社会的地位やイメージの向上に少なからぬ影響に少なからぬ影響も考えられ、優秀な人材の確保や離職率の低下、能力・働きがいの向上につながるという好循環のモデルを確立している。個人、組織、社会それぞれにとってWin-Winの関係の構築につながる可能性が高いと考えられる。派遣先企業のために課題発見・改善提案及び改善活動の実践などは顧客の信頼と満足度を高めている。また組織内でも従業員満足度調査での「働きがい」のスコア向上、コミュニケーション活性化が図られるなどの実績もみられる。

<本事例を取り上げた背景…審査委員会コメント>

新たな事業コンセプトに基づく「バリューチェーン・イノベーター」の活動は、社員、組織(ビジネス)、 業界の見られ方という社会性にも及ぶ活動である点で、KAIKAの考え方と重なるところが多い。不況の波を超えてきた背景から、業界全体の地位向上に意識が高い点も、今後のダイナミックな展開を期待させる。

具体的には、指揮命令を受けて仕事をするだけの派遣社員から、主体的に顧客の課題を見出し、提案する派 遣社員になることで、能力の向上や、働きがい・誇りが高まる。そのことが、顧客への新たな価値提案に結び つき、ビジネスとして売上や利益の向上につながる。さらに、そのことが派遣業界全体の社会的地位やイメー ジの向上につながり、ひいては優秀な人材の確保や離職率の低下につながり、冒頭の、派遣社員の能力・働き がいの向上につながるという、好循環のモデルとなっている。個人、組織、社会それぞれにとってWin-Winの関係の構築につながる可能性が高いと思われる。 派遣先のエンジニアとマネジメントに信頼され、派遣先企業のために課題発見、プロジェクトテーマ提案、改善実践を推進している活動から事業面での好影響が起こっている成果ならびに、従業員満足度調査での「働き甲斐」の項目改善、退職率の低下など社員側に関する実績の双方が増えている点もインパクトを多いに感じ させる。

力のあるリーダー層中心で進めた初期フェーズから、全社員を対象として同社の付加価値づくりにシフトしている中で、徐々に全体の力があがっていることは伺える。個々人や会社にとって、どのようにこの活動が進化し、影響を与えていくか、今後も注目し続けていきたい。

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