株式会社三越伊勢丹 事例にみるKAIKA経営の実践

KAIKA Awards 2015ではKAIKA大賞2組織、KAIKA賞6組織、特選紹介事例3組織を選出いたしました。
こちらのコラムでは順次事例をご紹介しています

KAIKA賞 株式会社三越伊勢丹

「徹底的に“個”と向きあい、従業員一人ひとりの力を最大限に引き出す戦略的人材育成」

【取り組み概要】

一般的な見方では、採用の時に関わったきりで、なにか特別なことがない限りあまり縁が無いし、関わりが薄いということもあるのが人事部門である。三越伊勢丹の人事部門は「経営戦略と直結した人事の抜本的改革」ならびに「ラインとのかい離を起こさない、実効性のあるボトムアップの仕組みづくり」という点に徹底的にこだわり、CDP面談をベースとした「個の力を引き出すための育成の仕組み構築」や「自律的なキャリア形成支援」を行っている。またそこで得た情報は、人事制度改革の仮説検証にも活かしており、複線型人事制度の導入や、女性活躍推進を見据えたキャリア支援制度の見直しなどが進められている。複線型人事制度は、三越伊勢丹で勤務する販売員(スタイリスト)の中から、販売において卓越したスキルを持ち、そのスキルを周囲のメンバーへ波及させていくことができる人材を「シニアスタイリスト」として任命・処遇するというもの。管理職へ登用される昇進ルートだけではなく、シニアスタイリストへの道筋も示されることで、個々の志向に合わせ、やりがいに結び付くキャリアを選択できるようにしている。また女性の管理職登用においては、大卒だけが対象であるといった意識の壁を取り除き、意欲のある人材に対しては、CDP面談等を通して人事が後押しをすることで、実際に高卒・短大卒女性の管理職登用の拡大へと結びついている。また店頭販売の中心を担い最も顧客に向き合っている月給制契約社員(2016年度より無期雇用化)とのCDP面談も積極的に進めている。「将来に対する不安感を共有した上で、仕事に対する将来像を提示されることで安心感が生まれた」という声も聞かれる。自身のキャリアに対する気づきを得ることで、正社員への転換者も増加傾向にあり、累計で400名に上る。そのうち5名がマネジャーに昇格しており、高いキャリアにチャレンジしてみようという気運が高まっている。

従業員の声を直接聞く機会としてのCDP面談は、これまで管理職のみだった対象者を2012年度より一般職層や月給制契約社員まで拡大し、従業員の認知度も高くなっている。人事部の担当者が一人あたり45分程度の時間を掛けて行っており、面談を行う前に、「今までやってきたこと」、「今後どんなことをやっていきたいか」を提出してもらい、書かれた内容をもとに面談をすすめている。

直属上司との面談では、他の部署に異動したい、というような本音については話しづらいこともあることから、ともすると表面的な内容となりがちな面がある。将来のキャリアについて、定型的で枠にはまった内容だけではなく、仕事のやりがいやプライベートなどの話も交えて会話をする中で、職場での悩みなどもよく話題に上る。面談で出た悩みや課題については聞くだけに留まらず、共有すべき内容に関しては現場の上長と連動して解決に当たっていくとともに、機能や職制で縦割り意識となりがちな人事部門内でも横断的に課題を共有し、次の人事施策に繋げている。また、従業員に対して更に高いステージで活躍したい場合は、手を挙げて欲しいというメッセージを発信し、チャレンジやよい意味での競争意識を促している。機会は公平に与え、やる気があれば後押しするといった、会社としての責任と従業員の意欲をきちんと循環させた中で、自発的な行動を推進している。

2012年度より、お客様と接点をもつすべての従業員の呼称を販売員から「スタイリスト」に変更している。顧客接点を通じて、「お客さまの豊かさ、お客さまの魅力、お客さまの上質、お客さまの感性、お客さまの新しさ、さらにはお客さまの未来」をスタイリングしていくことをめざしている。お取組先を含めたグループすべてのスタイリストのなかから、日々の接客で高い成果を上げたスタイリストを表彰・認定するエバーグリーン制度も設けており、スタイリストのモチベーションの向上を支援している。

KAIKAポイント

人事の最近の傾向としては、社員ならびに経営との結びつきが求められるようになり、従来型の管理志向の強い人事からの転換が求められている。ただ社員重視と標榜しながらも、現状維持型の人事部門もまま見られる。また会社の決まり事を押しつけてしまっている場合もある。この事例は、管理的で前例踏襲型になりがちな人事部を、ラインとの結びつきを強め、経営戦略を実現していく人事部に変革するための取り組みでもある。

グループの人事ビジョンは「従業員の持てる力を最大限に引き出し、伸ばしていける体制を作る」であるが、それがお客さまの満足と売上・利益への貢献に繋がり、結果として個々人の処遇・働きやすさに反映される正の循環を築くことを狙いとしている。ただしこの循環は、従業員満足度が向上することで、お客様満足も向上し、結果として企業の成長が生み出される流れでもある。

社会との結びつきが非常に強い百貨店事業であるだけに、この循環の打ち出しと、実践により“開花”していく色彩を感じさせる。

<本事例を取り上げた背景…審査委員会コメント>

「徹底的に“個”と向き合い、従業員一人ひとりの力を最大限に引き出す戦略的人材育成」というテーマに対して、同社の取り組みは真摯かつ徹底したものであり、その影響も全社、中長期に亘ってプラスに働いていることが認められる。それらの実現を可能とした、「経営戦略と直結した人事部の抜本的改革」「旧習にとらわれない意識・制度改革」、そしてそれらを支えた「トップと現場のかい離を起こさない、実行性のあるボトムアップの仕組みづくり」、ということの徹底と有効度が注目点となった。

事例は、経営戦略を実現する人事部に変え、ラインとの結びつきを強くするための取り組みであり、従業員一人ひとりの力を最大限に引き出すという経営の命題を実現する有効な施策と捉えられた。特に月給制契約社員など、店頭販売において最も顧客に向き合っている従業員の声を引き出し、制度の仮説・検証の場としていく取り組みは、人中心の経営を仕組みとして実現している例であり、年間1000人と向き合う数の多さに、経営活動の中心としてとらえている強い想いも感じられた。この先に生まれるインパクトに今後も注目したい。

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