<KAIKA大賞> JTBグル―プ 事例にみるKAIKA経営の実践

KAIKA Awards 2015ではKAIKA大賞2組織、KAIKA賞6組織、特選紹介事例3組織を選出いたしました。
こちらのコラムでは順次事例をご紹介しています

KAIKA大賞 JTBグル―プ

「『JTB地球いきいきプロジェクト』を通じた人づくりと社会価値の創造」

【取り組み概要】

高野山や伊勢などへの参詣の事例をみても、古くから人はどこかへ旅してきた。生物の本能ともいえるのかもしれないが、未知の場所を訪れることは人の気持ちを昂ぶらせる。非日常を味わい、自己の位置を知り、他者を理解すること、そして自分の持っている本来の力を引き出すということにもつながっているのではないだろうか。旅をすることとは未知のものに出会うことで、そこでの学びを日常に活かすことだろう。「はじめて訪れる土地、はじめて味わう料理。異邦人ならではの感覚を日常生活でも行い、未知に接することを旅人の思考と呼ぼう」と哲学者ボトンは言っている。旅は人の成長を促す。

旅行業を主要事業にするJTBだが、1912年の創立以来、事業を通した社会への貢献を使命として旅行業界を牽引してきた。本事例は、グループの事業領域を、人々の交流を創造し、促進する「交流文化事業」と定めた同社が、「お客様の感動と喜びのために、JTBならではの商品・サービス・情報および仕組みを提供し、地球を舞台にあらゆる交流を創造する」活動である。

JTBが主催し現地を訪れることが目的である一般の旅行募集や旅行手配などとは異なり、地域で営業展開する社員や関係者のアンテナに引っかかった地域独自の観光資源へ注目することから始まっている。地域の関係者とともに、地域の観光資源に気づき、体験プログラムに作りあげる。そして募集を行い、参加者とプログラムに取り組む。プロセスを経験することでの気づき自体が、三者三様に気づきとなっていく。

地域の関係者とともに、地域固有の魅力を磨き上げ、旅行だけではない、新たな需要を創造し、事業化を図っている活動である。社員は、活動の実施にあたって、関係者の立場を理解し、ともに発展、成長していくことを目指してプログラムを企画し、準備・実施することで社会性を高めている。

地域ごとに企画したプログラムは、旅行業で培った集客手法を用い、顧客や地域の関係者を対象に参画を促している。参加者は観るだけではなく、様々な催しを通じて体験をすることで、地域の方が普段生活している場所に、知らなかった地域素材があったことに気づき、住んでいる地域の良さを再発見することとなる。協力者はJTBのメンバーとともにプログラム開発を行いノウハウ蓄積と、参加者の反応を間近で感じ、今後の地域活性のヒントをつかむことができる。

旅行業においては業務の分業と専門化が進み、一部の業務を担当することはあっても、一連の業務すべてを体感することは少なくなっている。とくに若手の社員にはその傾向が多いため、たとえば旅行パンフレットを自身でつくる経験は少ないが、このような機会を通して最初から最後まで体験する-協力者との関係を深めたり、顧客へのアプローチの方法を考えるなどの実務を行うことで、成長の機会になる。このようにさまざまな関係者の気づきにつながる仕組みになっている。

事務局はグループ本社が受け持ち、各事業会社がプログラムを企画・実施している。各事業会社の地域の担当者は、その地域ならではの素材をさがし、プログラムを企画、実施するとともに、プログラムの集客やPRまでの役割を担う。事務局は、活動全般のマネジメントを行い、社内外への全般的な啓発活動を行う。社員には社内報などで本活動を周知し、社会的意義と成果を伝え、社員の意識向上と活動への参加を促している。

KAIKAポイント

「JTB地球いきいきプロジェクト」は、日本全国および海外にて、自治体やNPO団体などとも連携し、地域の課題や特色を盛り込んだ地域オリジナルのプログラムを作成し、参加者に体験して頂くものである。この活動は1982年に始まった「観光地クリーンアップキャンペーン」が基本となっており、およそ30年の歴史の積み重ねがあり、質・量とも発展中である。JTBグループ全体の事業ドメインは「交流文化事業」であり、本活動は同じ方向を向いている。

初期の取り組みでは、観光地を清掃するといった活動であったが、現時点では、見落としがちだった地域の貴重な観光資源・価値を再発見することにも焦点が当てられている。また、地域課題等についての理解を深くすすめ、解決に取り組むという活動にも展開が進んでおり、社会性が高い内容である。その取り組みが、社内的には、グループとしての一体感の醸成や理念の浸透、従業員の能力・意識の向上につながり、社外的には、JTBグループのブランド、レピュテーションの向上につながっている。個人、組織、社会(地球環境レベルまで)の各分野・レベルでの取り組みが進んでいる。3つの分野での効果が連動・連鎖している事例である。

<本事例を取り上げた背景…審査委員会コメント>

社会性・組織活性化・個人成長の3つのポイントを、それぞれの効果に強弱はあるものの同時に実現している点が素晴らしい。またその波及効果として、推進者の意図を超えて実行部門で自律的な発展を遂げつつある。全体への浸透度、社会課題の捉え方、人の成長・組織の活性化について課題認識もなされており、今後のさらなる発展に期待したい。

社員、顧客など関係者の社会意識を喚起すると同時に、プログラムを企画する側、参加する側、いずれにおいても社員の能力や意識の向上が見られる。顧客や地域からの感謝、自身の達成感などを直接的に感じることができる点も良い。社員教育の一部として利用されていたり、先導的役割を担った社員(経験者)からの組織内での横展開も見られる。自社だけでなく、地域の自治体やNPO、旅館といったステークホルダーを巻き込んだ取り組みである点も高く評価できる。

起源となる取り組みが1982年から始まっており、グループとしての事業ドメイン「交流文化事業」と極めて整合していること、社内体制も確立していること、その効果も認識されていることから、今後の継続性、発展性は高い。旅行業における顧客、主催者、関係者の枠を越えて、楽しんで協力するという意識付けとその実践において、社会貢献を超えて社会的な動きへの意識が起こりつつあると言える。地域貢献・ボランティアの域を超え、人材育成やブランディングと明確かつ意識的に関連づけていることや、「旅行業」からその事業特性・強みを発展させた「交流文化事業」という事業ドメインの変更・明確化に伴っていることから、取り組みの力強さ、新規性は高いと考える。地域課題の解決、文化や歴史の理解などだけでなく、海外展開、さらには地球環境レベルにも発展性があることから、社会的意義とそこから生まれる価値は大きい。

社会貢献と同時に、関係者各人/各社のそれぞれの実利を実現しているところに社会的価値を創出している。他の企業や団体などにおいても、同様の効果を意図した取り組みが異なるアプローチで行われているが、意識レベルでいえばおおむね共感されていると思われる。今後、社内外双方から、旅行業の進化系を提示していく企業だと認知が高まっていくことが、ブランディングにも生み出す価値の強化にもつながっていくだろう。

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