コラム「働き方シフトによる組織づくり」Vol.1

Vol.1  「多様な働き方」を考える

「多様な働き方」は何に有効なのだろうか

今「“多様な働き方”を社内に導入しなければ、世界との競争に勝てない」といった提言や警鐘が多く聞かれる。ダイバーシティの実現、女性活躍推進、在宅勤務制度、高度プロフェッショナル制度、ワークライフバランス・・・多くの方針や施策が導入されようとしている。そして、その理由として「多様な働き方の実現」という言葉が聞かれる。

語感として人に優しいというイメージがあるが、単に人に優しい企業のイメージをアピールするためだけで、「多様な働き方を実現」しようとしているわけではないだろう。あくまでも多様な働き方の実現は手段であって、その先に実現したい組織や生み出す価値創造やビジョンがあるはずだ。多様な働き方が目的化されてしまうと、結局何が良くなって何に有効なのかがわからなくなってしまうのではないだろうか。

一方で、企業は絶えず外部環境に適応し続けなければならない組織体である。「多様な働き方を実現」しなければならない背景には、グローバル化とIT、ICTの発達によって、仕事そのものが変化しているという側面がある。ITの活用によって職種自体が不要になることもあるだろうし、物理的に顔を合わさなくても進められる業務も出てくる。そうなると当然ながら法律の整備も求められるが、企業における雇用形態を含めて多様な働き方、つまりは選択肢を提供し、業務を進めやすい環境を提供することによって対応しなければならない。

テレワーク、リモートワークを例に

「多様な働き方」という選択肢として、テレワーク、リモートワーク(以下TW/RW)を取り上げてみよう。TW/RWの呼称の語源は、テレ、リモート(tele、remote=離れたところ)・ワーク(work=働く)にあり、TW/RWを活用した在宅勤務制度といった施策で適用されるなど、IT、ICTの発達によって生まれた新たな働き方としては典型的な例といえよう。他にも「ノマドワーカー」(ノマドは遊牧民の意味)と言われる喫茶店やファーストフード店などでノートパソコン等を使って仕事をする人を指す言葉などが生まれたことも記憶に新しい。いずれにしてもオフィスにいなければ出来ない業務ではない、あるいは物理的に顔を合わさなくても進められる業務が多い職種には向いている働き方といえるだろう。

どのように活用されているのだろうか

TW/RWについては、周りを見たとき、日常的に利用している事例はあまりないかも知れない。それでも国土交通省の調査(「テレワーク人口実態調査平成25年度」)によると40.6%の会社が在宅勤務制度を導入していることからみれば、各種の時間制度のうちでも、比較的によく知られているもののうちの一つだろう。高度成長期以来、都市化の進展と共に通勤時間の非効率性がいわれ、研究開発や営業などの一部の分野でサテライトオフィスについての実験が進められ、在宅勤務を推進するSOHOという考え方も広まった。最近では東日本大震災に起因する危機管理と節電の文脈でも脚光を浴びた。

-佐々木さんは、手元のマグカップに手を伸ばした。のどを潤して、あと一踏ん張りと、画面に再び目を転じようとしたが、でもすこし気に掛かったので、窓の方に目をやった。陽だまりベットの子供の寝顔は、健やかだった。長子を保育園に迎えに行くまでにはしばらく時間があるし、アジアパシフィックの複数メンバーで行う夕刻のWEB会議までには、あと一仕事片付けられそうだ。在宅勤務のありがたさを感じる一瞬であった。佐々木さんは、改めて真剣な面持ちで、明日に迫ったプレゼン資料の再確認に取りかかった-

TW/RWについては、このような場面で活用されている。さらに、つぎのような一文を加えてみると、雇用の多様化という面で面白い。

-30分ほどして、関係者閲覧フォルダーに会議資料をアップしたところで、子供がぐずり出した。そろそろ離乳食の時間だ。佐々木さんは、離乳食の調理の段取りを考えつつ、口元に手をやり、WEB会議までには、すこし伸びた髭を剃らなければいけないなと考えていた-

イクメンという男性の積極的な育児への参加を促進する言葉が登場して久しいが、実際の取得率は2.63%にとどまっているという(厚生労働省調査2014年)。雇用の多様化が進まないことを示す好例だが、本コラムの本筋ではないので、紹介だけに留めておこう。

人事の変化とTW/RWの進化

ITCの急激な発展に伴い、各種の情報へのアクセス容易性が飛躍的に高まり、意思決定を含む経営のスピード感が求められるようになってきている。仕入れ・販売・サービスのバリューチェーンがグローバル化を前提にしている社会であることから、人事についても日本国内の組織と日本人を想定するだけでは済まなくなってきている。また管理職を含む年長者が情報処理能力・活用能力が劣ることもあることから、仕事の役割分担の見直しも急なのである。従来の管理者の役割とされた情報収集と制御・判断機能を一元化することでのメリットが、社会の求めるスピードとミスマッチを生じさせ、停滞感を生じさせかねない状況になりつつある。

経営者から従業員そして関係者の意識や考え方、そして結果を生み出す能力について見直しを掛けていく必要があるということだ。すなわち人事面での影響は、雇用(採用・昇進昇格等)・処遇(異動・給与賞与)・評価・教育・厚生面などの多岐にわたる。従来の人事の姿を概観すると、法律や各種の規制に適した仕組みを構築し運用すればよいという、どちらかというと波風が立たないような処理を選択する消極的役割が伺えた。そこにメスを入れていかなければならない。

人事管理上、一般的に想定されている就業形態とは、「関係者が一所に集まって」、「始業・終業・休憩時間が定まっていて」であって、仕事のすすめ方については「上司の指示・管理下」にあり、潜在的な思考の中では、「正社員」が前提にされている。これは、「工場」や「現場作業」の労働に適した体系である。たしかに、効率を重視し作業を同期化した課業を中心とする職場では、このことが最も効果が高いと歴史的な経験則は語っている。個人の働きやすさや、働きがい、組織との整合性などを考えたときに、足かせを填めるような仕組みの妥当性や適正さについては、議論のあるところだろう。個人に自由裁量を与えることで、組織との関係性を高めつつ成果を高めていくことが、可能になるのではないかいうのも一つの考え方である。オフィスと同じ条件の環境にするために専用線を敷く必要があった時代から、携帯端末さえあればある程度の環境が整う現在は、まさにTW/RWの黎明期と考えられよう。現在取り組みが進んでいるTW/RWは、目的が再定義され、見直しされつつあるようにおもわれる。

総務省調査:
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h26/html/nc141220.html

人事が取るべき視点

世の中には、「見えていないので、なにもしない」ということもがあれば、「わかっているし、知っているけれど、できない」ということに遭遇することもある。前者の解決策としては、一定の条件の情報が与えられれば見えるようになるし、目をひらくことができるだろう。後者の場合には、わかっているつもりだったとか、知っているはずだったということや、できない条件を甘く見積もっていたといったことだろう。ただ両者とも行動しないということでは同じなのだが、前者は危機感不足、後者は過信や慢心なのだから、いずれにしても怠慢の誹りを免れないだろう。

さて人事をめぐる課題として、「年功序列」がある。これは、日本的人事の呪縛である。「職務」・「職能」・「能力」・「成果」・「行動」主義を標榜する人事制度が、折々に登場して、声高に年功序列の打開を唱えたが、一向に解決できなかった。しかし昨今、外部からの圧力という意味で、グローバル展開している会社の多くが、経営幹部に外国人を積極的に活用することで、制度や条件比較が進み、「年功序列」が見直されることとなりつつある。ただ、海外の一部の潮流が、経営や従業員にとって正しいのかどうかはわからないのだが…。

人事制度そして組織、マネジメント、経営自体も、世の中の変化に対応している。否、ダーウィン的だが、環境変化に対応できるものだけが生き残るのだ。だとするならば、主流ではない制度だし、対象者も限定されているからこそ、TW/RWを通じて制度を検討し、効果性を検証しておく必要がある。制度運用の常として、一律一元管理が旨となるのは、ある程度仕方ない面はあるけれど、「多様人材雇用」・「融通性のある時間管理」・「出戻りの寛容」・「追いつき・追い抜き」など、ゆるやかな結びつきによる人事も想定しておく必要があるのではないだろうか。

人事というか、経営を取り巻く環境も大いに変化してきている。マネジメントのあり方も変わってきている、それらのことについては、次回のコラムでご紹介できればと考えています。

(「『働き方シフト』による組織づくり」研究会 事務局)

ページトップへ戻る