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開花区

社員の成長が企業の成長

「KAIKAプロジェクト」における“これからの経営・組織作り”の考え方である「個の成長・組織の活性化・組織の社会性」を実現している企業のキーパーソンによる対談企画をお届けします。
第二回は「KAIKA Awards 2015」で「KAIKA賞」を受賞した 株式会社日本レーザー 代表取締役社長・近藤宣之さんと、検討委員をつとめている名古屋大学大学院経済学研究科 准教授・江夏幾多郎さんによる対談。日本レーザーではMEBO(マネジメント・エンプロイー・バイアウト)という手法で経営をしています。社員の成長と企業の成長が一体化していくことについて、対談を行いました。

「社員の成長が企業の成長」

社員を主語にして経営する

江夏 貴社で人事に関してしっかりメッセージが伝わっているのが、表彰のプロセスで資料を拝見した際から強く印象に残っています。

近藤 それは意識していますね。若いころに働いていた会社で、オイルショックのときにリストラが起こったんですね。私自身は組合の立場にいたのですが、どのような形の経営であるべきかというのを生々しい現場で経験しました。その後アメリカ赴任の機会もあったのですが、冷戦崩壊のような時代変化のなかで、やはり人を解雇せざるをえない状況に直面してきました。日本語でも英語でも、経営者の責任の1つがアカウンタビリティー(説明責任)ですが、説明責任はコミュニケーションを改善してモチベーションを上げていくことのためにも重要だと思っています。過去の経験から、社員に対してメッセージを伝えることは習性になっていますね。

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江夏 伝える側が責任を果たしたと思っていても、相手がそう思っていなかったら伝わらないというのがコミュニケーションの難しさです。経営者として心掛けられていることがあるのでしょうか。

近藤 経産省のデータでは日本には大小問わず、会社が386万社あると言います。そこの社長が300〜400万人いるわけですけれども、俺は社員を大切にしないで経営をしているっていう社長は1人もいないはずです。それにもかかわらず、粉飾や不正、偽装などが起こるのは、経営者も業績で評価されるからですね。しかし、社長を主語にしないで、社員を主語にするべきです。「社員が会社から大切にされているという実感が得られる経営」となったら、これは話が全然違ってきます。社員が会社から大切にされている実感が得られる経営なのか、建前として「俺は社員を大切にしている」と言っているだけなのかなんですね。

江夏 でもそもそも、事業がまわっていないとだめですよね。為替など逆風環境もあるなかで業績を伸ばしていらっしゃいますが、社員の頑張りに加えてどんなことが寄与しているんでしょうか。

近藤 逆に会社がダメになる時は、経営の基本ができていないわけです。情報がシェアされていない、危機意識がないとか、各自が勝手に、といったことです。経営者が常時ウォッチしていないから意思決定も遅れ、悪い業績は周囲や外部環境に原因があると考えがちです。この他責の文化が最大の問題なんです。
経営の基本ができていない社員に対しては、「俺の言うことを聞け」と、経営の基本をトップダウンでやります。しかし、雇用は絶対に守ります。社員ががんばる絶対条件は雇用の安定ですからね。

納得を高めるプロセスが、信頼をつくる

江夏 貴社の人事の特徴の一つが、強い雇用保障です。雇用が安定するとそれに安住する人も出るかと思いますが、貴社の従業員の方々はかえって意欲をかき立てられているようですね。

近藤 そこにはきちんと仕組みがあるからですね。私自身債務超過になった自社株を買い取り、今は全社員が株主の会社なっています。それで自分事になっていきますし、さらに成長したら成長した分だけ報われるようにしています。たとえば住宅手当という既得権型の手当ではなく、基礎能力手当というのを作り、能力向上に努力した人に支給するということにしました。たとえばTOEICの点数も能力向上で奨励しています。もちろん抵抗も出ますが、頑張りが報われる会社でないと、会社が潰れてしまうということを、時間をかけて説明して移行していきました。

江夏 物事を大きく変えようという場合には、既得権を持つ抵抗者を除いていくやり方もありますが、そうではなく社長がコミュニケーションをすることで、抵抗から納得へ変わっていく。その過程があるからこそ本人のみならず周囲も、会社への信頼を強めていくことになるんでしょうね。

近藤 そうですね。それと、人は誰でも年をとるなかで能力が落ちてくる部分もあります。また本人や家族の健康問題も出てきます。もし少しでも能力が落ちてきたら解雇ということをすると、皆が常に自分のことを考えながら仕事をするようになり、献身的なものが出てこなくなるでしょう。だからパフォーマンスで雇用を切るのは間違いなんです。ただし、皆待遇が一緒だったら、がんばりも報われなくなる。当社では上位層には業界他社どこにも負けない給料を出しています。差が倍ぐらいあっても納得するような透明性のある仕組みと、そして、その運用結果の納得性があれば、皆が納得して働けることになります。

江夏 経営者の大事な役割っていうのは、一人一人が自己責任を果たして、それぞれがそれぞれの生き方を追求するための場や枠組みを提供していくように思います。御社の場合それは、安心と厳しさを同時に提供するというところに宿っている。

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近藤 そうしなければ、会社が潰れてしまいますからね。一方で、当社は社員を裏切っていないという、積み上げた実績をつくってきた面もあります。当初2年ほどは強いリーダーシップで決めていき、次の2年で不良なバランスシートをきれいにし、そしてモチベーションを高くすることに向かいました。ただ唯一壁になったのが次の経営でした。私は子会社の社長として送り込まれていましたが、定年までというのが決まっていました。すると次に誰が社長になるかわからない。そして最後に考えたのがMEBO(マネジメント・エンプロイー・バイアウト)です。IPOをかけても、M&Aをやっても、結局社員のモチベーションの全体を上げることにはなりません。でも「君たち、3分の1の枠があるから出資してよね」と言った時に、何と4倍も来ちゃったんですね。定年再雇用も、定年で外から来た人間も、嘱託員の人も、正社員も、役員はもちろん、一人残らず全員が応募したんです。モチベーションが高いから応募をした、つまりMEBOをやる前の施策が良かったということになります。そこが大事です。そのステップがあって、MEBOがあります。MEBOになったから、みんなは株主だからモチベーションが高いということにはならないんです。MEBOでも役員がたくさん持っているのは事実です。それでも私ですら14.9%なので、支配株主は一人もいないんです。この時に、いわゆるガラスの天井まで取り除いて、これからは誰もが役員になれるし、誰もが社長になれるよとも提示しました。現在、まだ社長をやっているから、それは実現していませんが、次期社長は内部からになるでしょう。その次の世代に向けて、今年の1月に4人ほど執行役員になっています。

江夏 一つひとつ段階を積み重ねてこられたのですね。

近藤 また次の段階があるんです。社員の自主性ということをもっと高めていくということです。いろいろ研究してみたのですけど、社会学の概念なんですが、自己効力感のある社員、そして自己組織化を進めていけるかという問題に当たったんです。これは、組織のしがらみより優秀な個の営みを最優先し、その揺らぎから変化を起こしていく。今でも私自身が揺らぐから、就業規則を毎年変えていきます。揺らぎが新しい秩序を作るという条件を満たしてきています。そしてなんであいつだけ優遇するんだというような揺らぎや不均衡、カオス(混沌)に対して社長が耐えられるかでしょうね。でも言いたいことが言えるっていう風土がないとダメなんです。

江夏 自己組織的な組織というのは、基本的には揺らぎっぱなしなんですけれども、何らかの筋の通し方っていうのがあるからそれでも成り立つのでしょうね。例えば、経営者の堪える力や、他の従業員と処遇面で差が生じることを従業員一人ひとりが理解・納得するための「公平とはなにか?」という基準のようなもの。

社長はまとめるコーディネーターの役割

近藤 差が生じるという面で、公正(フェア)と平等(イクオリティ)は違いますよね。また、社長の言うとおり動けという場合もありますが、社長はコントロールセンターとなるべきかどうかですね。

江夏 いろんな人がいろんなことを言うっていう時に、それを1つのコンセプトにまとめ上げることが経営者には求められるということでしょうね。この点についてのお考え、方法論にはどのようなものがありますか?

近藤 私自身もやっぱり変わってきたんですね。まず他責は絶対にダメで、全てのものは自分の問題だと捉えています。また、「社長、お話があります」というときは嫌なことに決まっているんですが、まずニコニコとして聞くようにしています。これは、割と早い時期からやっていましたが、それで皆が安心してものを言ってくるようになりました。違った意見に対する耐性は、昔組合をやっていたからついたんでしょうね。そして周りの世界っていうのは、結果的に自分が招いている世界なので必然です。だから周りを非難するより感謝する。いろんなことを言う人が出てきて、多様なことを言う中から、まとまっていくわけです。そのまとめるコーディネーターが社長です。

江夏 社長の意思を伝える時に一番分かりやすのは、上から順に伝えるやり方ですが、くまなく巡られるっていうのは、サイレント・マジョリティを拾おうっていう前提なんですよね。

近藤 そうです。例えば、役員会で話して、幹部会で話して、全社会議で話して、全社会議に出ない人もいるから、何度も同じことを話しています。説明責任って1回言えば済むっていうものじゃなくて、相手が納得しているかどうかですからね。

江夏 御社の特徴である「新しい日本的経営」という点ですが、雇用を守るとか人と人の関わりを大事にするとかっていうところは、確かにとても日本的です。しかし、良い悪いは別にして日本的経営の一番の特徴であった雇用契約や職務内容、日々のコミュニケーションにおける曖昧性といった部分は否定されているように見えます。これらが同居しているあたりは、自分の伝統を持ちつつも1980年代に日本企業から多くを学び、自己変革した一部アメリカ企業の「ベスト・プラクティス」とされていることと似ているなと思います。もともと日本企業もアメリカのやり方を学んでいたし、一連の「見える化」を戦後の早い時期に志向だけはしていたので、御社のやり方が全く突飛というわけではないのですが。
ただ、一人一人の仕事を明確にすると「チームワークが損なわれる」ということがよく言われます。共通目標を設定する、チームワーク意識を持たせながら一人ひとりに仕事を割り振る、といったことを同時に講ずればこうした懸念を過剰にする必要はないとは思うのですが、強い懸念があるのも事実です。御社では、社員のチームワークについてどのような工夫があるのでしょうか。

近藤 従来より行っているのがダブル・アサインメントであり、マルチタスクです。それを行うために一番大事なのは、ビジネスは常にアップ・アンド・ダウンや変化があるので、社員が成長しなかったら雇用は守られないよっていう成長風土を作らなきゃダメなんです。利他と成長がセットで、他人のために働くことが評価基準にも入っているからできるんでしょうね。

理念と仕組みが強みになる

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江夏 評価や育成は管理者の仕事の大きな部分ですが、忙しくてフィードバックもしっかりできない状況が一般的にはありがちですよね。

近藤 当社では今の仕事、評価、今後の期待をコメントしています。役員が年2回面接をしています。10人いるとすると、1人に40分かけたら400分ですからね。大変な時間です。しかしそれをやっていくと、部下が辞めなくなります。要するに、どんな処遇制度でも人事制度でも待遇でも、透明性と納得性の2つがキーワードです。中身は違ってていいです。でも、それがどういう基準で評価をされて、なぜ私の評価がこうなのかっていうことがないとダメなんです。

江夏 私自身も処遇への納得性に関する調査をしたことがあるのですが、納得感に影響する要因の中で上司によるフィードバックがすごく大事なことが確認されました。それ自体は特段不思議なことではないですが、フィードバックが従業員の納得感に与える影響は、従業員自身が評価面談の際に発言できた、あるいはそれが実際の評価結果に反映されたということによる影響よりも大きいという傾向が出ました。自分がどう働きかけたかというよりは、会社がちゃんと見てくれたかということの方が、公正感に響いているんですね。

近藤 最近は為替の変動で、普通のやり方では絶対に赤字になる状況もあります。しかし「火事場の馬鹿力」が出て黒字になっています。それが起こるのは、会社への信頼感、会社への献身、会社への忠誠心っていうものが普段から醸成されているからでしょうね。そういうことが経営の中に実は、いっぱいあるんです。そして大事なのは「一体感」です。当社では忘年会もパーティーも、会社が全額を出して社員やパート社員だけではなくここに毎日来ている外部の掃除の方まで毎回呼ぶんです。
もし当社に強みがあるとすれば、役員にもみんなオーナーシップを持ち、社員が当事者意識を持っていることだと思います。当事者意識を持つために若干といえども持ち株をしているということも影響していると思います。だけど、仕事の仕方や評価の公表などいろんなことがあって、当事者意識を持たざるをえないような仕組みもある。だから、強みは理念と仕組みだと思っています。

一同 相互に共感する点が多く、話しだすときりがないですね。本当にありがとうございました。


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株式会社日本レーザー 代表取締役社長 近藤宣之さん

1968年日本電子株式会社に入社。電子顕微鏡部門応用研究室に勤務。全国金属労働組合同盟、日本電子労働組合執行委員長に就任。1983年まで同職を務めた後、総合企画室次長、取締役アメリカ法人支配人、取締役国内営業副担当などを経て、1994年、株式会社日本レーザー代表取締役社長に就任、現在に至る。2007年に役員・社員の持株会などから構成されるJLCホールディングスを設立し、MEBOを実施。日本電子からの独立を果たす。同社は第1回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞・中小企業庁長官賞を受賞(2011年5月)。また東京商工会議所第10回「勇気ある経営」大賞・大賞を受賞している(2012年10月)
http://www.japanlaser.co.jp/

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名古屋大学大学院経済学研究科 准教授 江夏 幾多郎さん

2008年、一橋大学大学院商学研究科博士後期過程単位取得退学。2009年、博士学位を取得(商学;一橋大学)。2008年より名古屋大学大学院経済学研究科。講師を経て、2011年より現職。専攻は人的資源管理論。 著書に『人事評価における「曖昧」と「納得」』(2014年、NHK出版新書)。 主な受賞に、第9回経営行動科学学会奨励研究賞、第13回労働関係論文優秀賞。

(写真:上飯坂 真)

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