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開花区

徹底的に“個”と向き合い、従業員一人ひとりの力を最大限に引き出す

「KAIKAプロジェクト」における“これからの経営・組織作り”の考え方である「個の成長・組織の活性化・社会との関係(組織の社会性)」を実現している企業のキーパーソンによる対談企画をお届けします。
第三回は「KAIKA Awards 2015」で「KAIKA賞」を受賞した株式会社三越伊勢丹 グループ人財本部 人事企画部長 藤森 健至さんと、審査委員を務めている株式会社 道 代表取締役社長 河合 太介さんによる対談です。三越と伊勢丹が統合して2011年に(株)三越伊勢丹が誕生。歴史や強み、風土が異なる企業の統合により、新たな価値を生み出そうというなか、人事部は「三越伊勢丹グループで働く従業員が持てる力を最大限に引き出し、伸ばしていける体制作りを行う」を人事ビジョンに掲げ、1万2,000人に及ぶ従業員一人ひとりと徹底的に向き合う姿勢をベースとした人財育成フローを構築。意欲のある人材の自律的キャリア形成支援、個の力を引き出すための育成の仕組み構築を行い、従業員のスキル向上・モチベーションアップを図っています。

人事とは何かに立ち戻る

kawai河合 三越さん、伊勢丹さんの経営統合を乗り越えてこられていますが、歴史も強みも文化も違う多くの企業が統合後に抱える問題として、人事的な問題があります。グループスローガンで、「向き合ってその先へ」を掲げて進んでこられた貴社においても、現実は厳しかったのではないでしょうか。そのような中で、従業員と向き合い、何をすべきか。人事部としてどのような取り組みを行ったのでしょうか。

藤森 統合後、経営トップが経営戦略として「戦略人事」という言葉を繰り返し、人の大切さを発信していたこともあり、人事としての取り組みを考える前に、経営戦略部門としての人事の役割を見つめ直そうと、まず人事部の部長6人で合宿をして「人事とは何か」を徹底的に議論する時間を持ちました。2011年に統合後まもなくのことです。人を重視するのはどの組織でも同じでしょうが、人それぞれの価値観も違う中で、組織内でベクトルの違いも出てくるものです。会社として人に対してどのような方針を持つのか、そのビジョンが重要だと考え、「三越伊勢丹グループで働く従業員が持てる力を最大限に引き出し、伸ばしていける体制作りを行う」というグループ人事ビジョンを掲げることにしました。
弊社は全国に店舗を持ち、約6万人のスタイリストと呼ばれる販売員に支えられています。そのスタイリストのたった一人でもお客様に失礼な対応をしてしまうだけで、弊社の目指す「上質であたらしいライフスタイルの創造」という企業理念が伝わらなくなってしまいます。入社3日目のスタイリストも、ベテランのスタイリストも、一人ひとりが力を最大限発揮し、世の中やお客様の半歩先の視点を持ちながら、新しさを提供していく必要がある。それを実現できるようにしていくのが我々人事の使命です。働きやすい環境整備、個々の力が発揮し続けられるキャリア形成支援、そしてスキルや経験を持つ従業員が一人でも多く仕事を続けてくれるための制度などを一つひとつつくりあげながら、本気で個々人に向き合う取り組みや施策を始めました。

1000人キャリア面談

藤森 そのすべての取り組みや施策の核となるのが、「1000人キャリア面談」です。人事部員が、現場で働く一人ひとりの従業員と直接キャリア面談をする制度なのですが、今では1年間に1500人ほどの従業員と一人45分~1時間程対話をします。以前は管理職のみを対象としていましたが、2012年度より一般職、2013年度からはメイト社員(領域・勤務地限定社員/2016年4月から無期雇用化)まで拡大し、2015年度からは、時給制契約社員も希望すれば面談を受けられるようになりました。特に店頭販売の中心を担うメイト社員、時給制契約社員の声を聞く機会を積極的につくってきました。
面談は形式ばったものではなく、現状の課題や上司に言えない悩み、将来のキャリアイメージなどを親身に聞きながら、時にアドバイスをします。たとえばメイト社員の方が、正社員転換試験を受けるかどうかためらっているとしたら、働き方や経験の活かし方の道筋を示しながら、キャリア転換へのチャレンジを後押ししています。また、管理職昇格試験の受験資格がある女性社員が、意欲があるにもかかわらず様々な事情で受けるのをあきらめてしまうケースもあったのですが、ラインと協働で当事者の背中を押すことで、挑戦する人も増えてきました。
そうした積み重ねのうえで、2016年にはメイト社員から正社員へと約100人が転換しました。昔は年間を通じてたったの5人しか転換しないくらいで、統合直後も50人程度だったことを考えると倍の数になってきています。時給制契約社員からメイト社員に転換し、さらに正社員を経て管理職まで上がっていった人も2名います。まだまだ足りない数字ですが、「入り口違えど、ゴールは公平」というキーワードが少しずつ浸透し、いかに自らのキャリアアップを目指していくかという一人ひとりの意識が高まってきています。

人という財産をしっかり把握する強み

fujimori藤森 この面談は人事にとっても重要な場になっています。面談から得られる貴重な従業員の「生の声」により、人財データベースが蓄積されるとともに、人事制度改訂に関する生きた情報収集、仮説検証の機会にもなります。たとえば育児にかかわる人事制度の見直しを検討する必要を感じていたときに、一定数、複数立場の育児勤務者との面談を行いながら、立てた仮説を検証していきます。育児に関しては、仕事としっかり両立したいが時間的制約があるという悩みと、キャリア上はもっと仕事をしたいという想いのジレンマがあることを具体的に把握していく中で、今は「育児勤務者の一時フルタイム勤務制度」という制度を取り入れています。基本的には時短勤務をするのですが、月に10日までは上長申請のうえフルタイム勤務ができるという柔軟性を持つ制度で、それは従業員からかなり好評です。
こうした面談を通じて、「会社が一人ひとりをしっかり見ている」ということと、「一人ひとりが思うことを伝えることができ、きちんと受け止めてくれる」というメッセージが従業員に理解・浸透されてきたことは大きいと思っています。

河合 会社同士の統合というのは、従業員にとってはだいたい不安にかられるものですよね。自分の仕事はどうなるのだろう、自分のキャリアはどうなるのだろうということを誰しも考えるでしょうし、出身会社による壁がなかなか解消できないこともあるかもしれません。しかし今のお話を伺っていると、出身会社は関係なく会社は全員に向き合うということと、従業員の声をしっかり聞くという姿勢が示されたことが大きかったのでしょうね。

藤森 確かに統合当初は、旧三越、旧伊勢丹という意識は残っていたでしょうね。しかしそこにこの面談の仕組みは大いに機能したと思っています。管理職昇格試験にチャレンジしたいけれどためらっている人に対して、管理職昇格試験で見るのは出身会社や性別、学歴ではないということや、今の業務のやり方をどのように改善するとよいか、どのような意識を持って日々の業務を取り組むとよいかというようなアドバイスを個々の状況に合わせて出来る限り具体的に行います。そういうアドバイスをくれる場だと噂が広がると、次の面談に来る人は具体的な相談事を準備してやってくるようになりました。

人と事業を伸ばす仕組み

藤森 統合後に、1000人キャリア面談以外にも様々な人財育成の取り組みを進めていますが、特に我々のコアコンピタンスである販売に関しては力を入れました。たとえばSSP(Sales Skill up Program)という、一人ひとりの販売力を上げる仕組みです。一口に販売といっても、実は340年の歴史の三越と140年の歴史の伊勢丹とそれぞれが販売に関するポリシーを持っており、しかもどちらも言語化されていませんでした。上司のスタイルが継承されてきた部分も多いでしょう。
しかし全員が共通のビジョンを目指して進んでいくためには、共有できる言語が必要です。そこで、出身企業に関わらず全国各店で優秀な30人のスタイリストに、どのようにお客様満足を高めているかをヒアリングしました。「お客さまにご満足いただき、結果売上げにつながった行動」「なぜその行動をしようと思ったか」など、その時の言動や思想などを細かく聞き出し、膨大な情報を分析して、そこから「9つの行動」と「23のスキル」にまとめ上げ、SSP ができました。同じ行動でもお客様をしっかり見ているかどうか、お客様への共感力を持つかどうかでレベルの違いが出るのですが、一人ひとりの各行動・スキルを更に4段階にレベル分けすることで「販売サービス」を見える化しました。上司とスタイリストが同じ基準で、かつ一人ひとりのレベルに応じてスキルアップを図っていけることで、全体的なスキル・モチベーション向上につなげています。
全体のレベル・モチベーションアップを図る一方、「選抜型」によるコア人財の育成や意欲のある若手・女性に対する育成機会の拡大にも注力しています。たとえば、米国フロリダ州のウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート内にある米国三越日本館での海外研修出向は、社内公募で希望者を募り面談を経て決めています。雇用形態にかかわらず、自らの意思で手を挙げられる仕組みなので、メイト社員も積極的にチャレンジしてくれています。

職場の力を引き出す活動

2shot河合 少し視点を変えてチームについてはどうでしょうか。百貨店の売り場一つ一つがチームだと思いますが、自分の売上、自分のお客様という視点に個々が固執しすぎると、組織成果にはつながらなくなってしまいそうです。チームの一体感作っていくために、何かグループとして行なっていることはありますか。

藤森 「職場の約束」運動という、企業理念の具現化およびお客様の満足の最大化を目的とした全社運動があります。「婦人靴」「紳士スーツ」「紳士靴下」などのお買場(売場)、また「経理」や「不動産担当」といった職場単位が国内外で1400チームほどありますが、その1400チームがそれぞれに企業メッセージである「This is Japan.」を推進する行動を決め、日々の業務の中でチーム全員で取り組みます。地区予選を経て、最終的に勝ち上がったチームは、年度末の3月に日本橋の三越劇場で表彰式・発表会があります。

河合 チーム個別の目標ではなく、全社スローガン、例えば今回の「This is Japan.」を各チームで、同じものを自分たちの職場が工夫しながら、現場で検証する過程で、チームが一丸となっていくのですね。それが職場風土としてまた機能していくのだと思います。

採用時にも貫かれる人に対する姿勢

河合 社員一人一人に向き合った経験は、採用のやり方にも影響していったのでしょうか。

藤森 そうですね。ここでも個と向き合う姿勢を重視しています。採用担当者は最終面接まで学生の味方です。採用面接は、グループ面接、個人面接、最終面接と続くのですが、個人面接に受かった学生が最終面接で受かるにはどうしたら良いかを、採用担当者は学生側に立って考えます。例えば、紳士服は好きだけれど入社後のやりたいことがまだわからないという学生には、紳士服の優秀なマネージャーとの面談をセットします。それでも迷うようならさらに他の社員と、というように、最終面接までの間、多い場合は5、6人の社員に会う機会をつくります。それによって学生一人ひとりが最大のパフォーマンス、最大のモチベーションで最終面接に臨めるよう、採用担当者が援護していくのです。最終面接では1人あたり45分~1時間と長い時間をかけるのですが、その人の経験をじっくり聞きながら「素直さ」「やりぬく力」「個性」を見極めていきます。実は以前は内定辞退率が35%ほどあったのですが、このような取り組みをしてから10~20%台に下がってきました。

河合 やはり学生は自分を応援してくれる会社、最終面接でここまでのことを理解してくれようとしている会社と思うわけですね。面接プロセスを通して会社を好きになっていくという流れがすばらしいと思います。徹底的に個に向き合うことの信念を改めて感じました。


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株式会社三越伊勢丹グループ人材本部 人事企画部長 藤森 健至さん

1992年株式会社伊勢丹(現・三越伊勢丹)入社。新宿店ベビー子供用品部、MD統括部婦人ユニット部を経て、2006年人事部労務・人材サービスを担当。2011年より(株)三越伊勢丹ホールディングス 経営戦略本部 人事部人事キャリア担当部長として、三越、伊勢丹の事業会社統合後の採用・人材育成・異動を中心とした人事制度改革に従事。2016年よりグループ人財本部 人事企画部長(現職)として、グループ人事ビジョンである「従業員の力を最大限に引き出し伸ばしていける体制」の実現に向けた人事制度改革、人材育成フロー構築等に取り組む。

kawai
人と組織のマネジメント研究所 株式会社道 代表取締役社長 河合 太介さん

金融系総合研究所、外資系コンサルティング会社を経て、現職。現代社会の職場の問題を指摘し27万部超のベストセラーとなった「不機嫌な職場」や、本田宗一郎氏をモデルにしたビジネス寓話「ニワトリを殺すな」が10万部超になる等、著書多数。早稲田大学大学院 商学研究科MBAコース非常勤講師として「企業価値向上と人材マネジメント」、「リーダーシップの現場」の科目担当。
<主な著書>「不機嫌な職場」(講談社現代新書)/「フリーライダー」(講談社現代新書)/「サバイバル脳」(経済界)/「ニワトリを殺すな」(幻冬舎)/「デビルパワー・エンジェルパワー」(幻冬舎)/「よくわかる成果主義」(日本実業出版社)/「この先10年給料はどうなる」(日本能率協会マネジメントセンター)他

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