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香りの専門家として生きる。
仕事も、プライベートでも。

PROFILE

株式会社バスクリン

製品開発部 開発2グループ

マネジャー 調香師

荘司 博行

1993年 東海大学文学部広報学科広報メディア課程卒

 

小売りの世界に興味を持ち、ディスカウントストアやスーパーマーケットでの勤務を通して、日用品からペット、家具、生鮮食品とあらゆるジャンルの商品を取り扱う。一方で、化粧品や香水を販売していた父の影響から「香り」への関心も強く、「香りの学院 グラース」にて香りづくりの基礎を学ぶ。2002年株式会社ツムラLS商品開発研究所(現:株式会社バスクリン)に入社。調香師として入浴剤の香りをクリエイトし続けている

※記事は取材当時の所属役職のものです。

40代の仕事を、どう楽しむか。

私たちのバスタイムをちょっと豊かにしてくれる入浴剤。森林の香りに包まれれば、まるで森の中に身を置いたようなリラックス感を得られるし、フレッシュなレモンの香りからは、前向きなパワーがあふれてくるような気がする。この一つ一つの香りを、3000種もの原料をかぎわけながら、調合し創り上げていく。それが調香師・荘司氏の仕事だ。がむしゃらに目の前の仕事に打ち込んできた30代を経て40代の仕事をこう語る。

「40歳を過ぎると仕事のステージも変わってくるのかなと思うんです。30代で自分がやってきたことは若手に任せ、自分は彼らのサポートをしながら、新たな挑戦に向かうべきだなと。ただ、40代はもう誰かに教えてもらうステージではないので、外部の方と交流しながら刺激やアドバイスを受ける機会を作っていますね」

仕事の枠を越え、変わった人たちと話すのは楽しいと言う荘司氏。音楽家、格闘家など分野を問わず様々な人との交流を大切にしている。さらにセミナーへ参加したり、ビジネス書、論文を読むなど、好奇心の赴くままに知識を深めていく。

「香りは鼻で嗅ぎますよね。そこで嗅覚に興味を持ったんです。調べていくと、嗅覚研究といっても個々のテーマは非常にマニアックなのでそれぞれはつながってないんです。研究結果が星のように点在してるんですよ。だからそれを集めて香り創りに生かしたら、面白いことができるんじゃないかと思って」

40代、新たなステージを楽しむ荘司氏。その姿はまるで、まだ見ぬ絵に胸を躍らせながらジグソーパズルを解き進める少年のようだ。

たとえば医療の問題を、
香りで解決できないか。

2004年、アメリカの研究者が嗅覚研究の分野においてノーベル生理学・医学賞を受賞。人がにおいを感じる仕組みが初めて明らかになった。香りは私たちの生活に身近なものでありながら、嗅覚に関しては解明されていないことも多い。今後の研究結果によっては、これまでの常識がひっくり返る可能性すら秘めている。香りの新たな活用方法も、どんどん生まれていくだろう。荘司氏も仕事とは別のフィールドで、香りを使った様々な取り組みに挑んでいる。

「調香師って世の中にあまりいないので、いろんな方から香りに関する相談を受けるんです。仕事と直接関係なくても、自分に答えられることは返していこうと思っています」

今興味があるのは、病院館内における香りのデザインだ。ホスピスで働く知り合いから相談を受けたのがきっかけだったという。病院には特有のにおいがある。自身が入院した際もそのにおいに、たとえ健康な人がここにいたとしても具合が悪くなりそうだと思った。さらに、ホスピスや介護施設で働く人の多くが様々なにおいに悩んでいるという現状を知り、現在はその解決方法を模索している。

「究極的には、どんなことでも香りで解決していきたいと思っています。たとえば香りで痛みがとれないかな?とか、傷が治らないかな?という風に考えて、その方法を調べていく。実は香りって意外なほどいろんな効能があって、実際の研究結果から、あ、これでいけるんだ、ということも多いんですよ」

香りの効能については医療分野でも注目され始めている。香り成分となる化学物質は、体や脳に働きかけることができるからだ。しかも、注射や内服とちがい、副作用がほとんどない。そこに大きな可能性を感じる人も多いという。

「入浴剤の香りを創る仕事ですが、その知識は様々なところに応用できる。香りの専門家として、世の中の問題を解決していくということが、私のライフワークになっています」

上野アメ横、浅草と
小売で経験したことが
今の仕事にいきている。

父は上野のアメ横で化粧品屋を営んでいた。香水を扱っていたこともあり、荘司氏にとって香りは昔から身近なものだったという。

「店を手伝っているうちに香水ってどんなものからできているんだろうって気になって。仕事をしながら、香りについて学べる学校に通っていました」

だた当初は、いずれ家業を継ごうと思っていたため、ディスカウントストアやスーパーマーケットといった小売業に身を置き、売り場・仕入れ・流通など小売業の仕事をひと通り経験しながら学んでいった。

「今も仕事で大切にしているのは、常にお客さんの方を見て仕事をするということ。実際に小売り現場にいた経験があるので、香りを創っている時もお客さんの顔が浮かぶんですよね。お客さんはどういう気持ちで商品を手にとるのかって。だから自分が好きな香りを創るとかではなくて、逆に私たち創り手のエゴは絶対に入れないように気をつけています。極端な話、自分が嫌いな香りでも、お客さんが求めているものなら、その香りを完璧に創り上げてみせますよ」

上野のアメ横から始まった荘司氏のライフストーリー。異色の調香師は、今後香りでどんな道を切り拓くのか。荘司氏の今後の活動から目が離せない。