『KAIKA Awards 2020事例集』からのピックアップ②
株式会社JTB(株式会社JTBパブリッシング)

「KAIKA Awards 事例集」は、2014年から始まった表彰制度で受賞した組織の事例を取り上げています。2020年度は21組織の事例を掲載しています。今回は、その中から、旅行ガイドブック「るるぶ」を出版する「JTBパブリッシング」の事例をご紹介します。

『るるぶ』電子書籍無料公開を始めとした在宅応援施策「おうちdeるるぶ」

コロナ禍により旅行者が大きく減少したなか、お客様視点と自社の存在意義に立ち戻り、「家で楽しめる」在宅応援施策を次々と発信した取り組み。2020年の4-5月という短期間で、従業員が自発的にたくさんのアイデアを出し、迅速な意思決定と部門を超えた連携で、多様な企画が実現した。「おうちdeるるぶ」と名付けた一連の取り組みには、特設サイトへのアクセス、メディアでの紹介などを通じて、多くの注目が集まった。
こうした活動を通じ、従業員は、真に「お客様視点」で考えることの意義を体感することができた。また、地元の旅行資源に興味を持つ顧客の反響から、マイクロツーリズムなど、ニューノーマル時代に向けた事業のあり方への萌芽も生まれている。

受賞ポイント(KAIKAな視点・取り組み)

2020年4~5月は、新型コロナウイルス感染拡大防止のための外出自粛で人の移動が制限され、旅行業にとっては非常に厳しい状況となった。旅行・ライフスタイル情報を発信するJTBパブリッシングのメンバーは、そのような状況のなかでも立ち止まらず、自分たちが何をできるのか考えて動き出した。そこで生まれたのが、「おうちdeるるぶ」という取り組みだ。
200点にものぼる『るるぶ情報版』の電子書籍無料公開から始まり、各地の旅行資源・情報をつなぐ取り組みへと発展。地域特産品のオンライン販売、お取り寄せレビュー企画、ご当地クイズなどが次々と発信され、多くの注目や共感を集めた。
旅行関連という従来の事業価値提供が困難となるなかで、いかなる価値提供が可能かを組織的に検討し、真正面から取り組んだ事例と言える。従業員一人ひとりが自社の社会的意義に立ち戻り、社内に蓄積された資源(コンテンツ)の価値を再発見し、迅速な意思決定と部門横断連携を果たしたことの意義も大きい。目に見える形でファン拡大が起こったことで、社員の自信や誇りも高まった。単に、リアル事業をオンラインに移行したというものではなく、従来から培われていた組織力発揮の土壌と、個々人のマインドが組み合わさったことで実現された取り組みでもある。

取り組みの背景と内容

JTBパブリッシングは、旅行情報誌『るるぶ情報版』をはじめ、紙、デジタル、リアル店舗を組み合わせて、旅行・ライフスタイル情報を発信している会社である。旅行ができない状況は、同社にとって大きな逆風であったが、すぐできる施策はないかと、自宅で楽しめるものを検討。経営企画本部広報チームとデジタルコミュニケーション事業部を中心に、『るるぶ情報版』電子書籍の無料公開を実施することとなった。コロナ禍でも旅行の楽しみを想像できれば、『るるぶ』、ひいてはJTBブランドの価値向上が図られるだろう、そして、旅行再開時に現地を訪れるきっかけとなればよいという発想から立ち上がったものである。
電子書籍の無料公開の反響は大きく、それは従業員一人ひとりにとって、今やれることがあると考えるきっかけにもなった。社内から自発的な施策アイデアが続々と寄せられ、「お客様が在宅時間を楽しめる取り組み」のコンセプトとして企画を再定義。毎週のごとく様々なコンテンツがオンライン上で提供された。
こうした取り組みがスムーズに進んだ背景には、部門間連携と迅速な意思決定プロセスの実現がある。経営企画本部が橋渡し役となって、部署を横断したコンテンツの活用や協働が行われた。例えば、リアル店舗メディアであった『るるぶキッチン』において、兵庫県洲本市や沖縄県と協力し、地元食材を自宅で楽しめるオンライン販売へと転換したのは、既存のシステムを活用することで販売実現までのスピードを確保した一例だ。生産者と消費者のオンライン交流を促進し、後日、洲本市への旅行をした時に使える利用券を同梱するなど、旅行資源を複合的に組み合わせたコンテンツとして提供された。
同社ではリモートワークが早くから整備されていたことが、状況に応じた柔軟な対応をしやすくした面もある。従来とは決裁プロセスを変えるという決断を早期に行って、スピードを早めたことも、インパクトを後押しした。

取り組みの成果や波及効果、推進ポイント

もともと同社では、「お客様視点」での思考・行動がうたわれていた。しかし、「コロナ禍で旅行ができないお客様にとって、どんな取り組みがあれば喜んでもらえるか」ということを、一人ひとりが考え抜いたということが大きい。取り組みの反響がSNSやメディアを通じて得られたことで、真に「お客様視点」で行動することの価値に、改めて気づいた従業員も多いだろう。また、多くのメディアに取り上げられたことで、社員のやりがい・誇りも高まっている。短期間に次々企画を実現した実績は、「やればできる」という感覚を組織に醸成し、組織力強化にもつながっている。
さらに、新たな形でお客様に「楽しみ」を提供した経験は、同社の事業内容をも進化させている。例えば、従来、“見る・食べる・遊ぶ”おでかけ情報を発信していた『るるぶ』は、“ご近所トリップ”や“知る・創る・学ぶ”という新機軸を追加。SNS等を通じて、「地元の『るるぶ』を見て、知らなかった魅力を再発見した」といった声が届いたことがヒントとなっている。
こうした取り組みは、ニューノーマル時代における旅のあり方として提唱されている「マイクロツーリズム」に通じるものがあり、顧客の反応や動向をいち早くつかむ方法としても可能性を帯びている。今後、複合的なメディアを組み合わせて情報を発信し、JTBならではの一層の価値向上を図っていくための素地にもなっていると言えるだろう。

審査委員会・アワード事務局からの所感コメント

主事業である「旅」そのものが困難になるなかで、“嵐が通り過ぎるのを待つ”という姿勢ではなく、新たな挑戦機会と捉えて、「ウィズコロナ」の事業づくりに向かう姿勢、そのプロセスとして好事例である。「何とかしなければならない」という必然的な発想ではなく、自分たちの想いと存在意義に立ち返り、展開した点も素晴らしい。
様々な施策を進めるなかで、マイクロツーリズムの可能性など、従来の「旅行利用者」より広いステークホルダーが存在することに気づいたという過程も意義深い。顧客とのコミュニケーションにおいても新たな関係性が築けており、ニューノーマル時代の旅行業のあり方に発見をもたらしている。

Awardエントリー後の活動の広がり

現在、都市部を中心とした2回目の緊急事態宣言が発出されるなど、旅行・観光業界では依然として強い逆風にさらされている。しかし、同社ではさらにその取り組みを進化させている。
旅行情報誌「るるぶ」のコンセプトを「見る・食べる・遊ぶ」に加えて「知る・創る・学ぶ」へと広げ 『るるぶONE PIECE』、『るるぶ 新日本プロレス』、『るるぶ シルバニアファミリー』など 、人気マンガやプロレス、キャラクターとのコラボによるファンブックを刊行。さらにヒーリングフォトを発行するなど、一見すると旅とは関係ないテーマを取り上げているように思える。
しかし、フォトブックの写真には世界のパワースポットを、ファンブックでは主人公たちが訪れた各地のモデルとなった街を取り上げるなどコアとなる「旅」の要素が含まれている。
さらに事例集にも掲載されている兵庫県洲本市とは、「洲本市魅力創生課 東京事務所」を同社のビル内にオープンするなど着実に発展させている。今後も同社のKAIKA的な取り組みに注目していきたい。

「KAIKA Award 2020 事例集」は下記からダウンロードいただけます。
https://kaikaproject.net/kaika-awards-download/

KAIKA Awardsの過去の受賞組織一覧は下記をご覧ください。
https://kaikaproject.net/awards/history

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