株式会社千代田設備 事例にみるKAIKA経営の実践

KAIKA Awards 2016ではKAIKA大賞2組織、KAIKA賞4組織、特選紹介事例3組織を選出いたしました。
こちらのコラムでは順次事例をご紹介しています

KAIKA大賞 株式会社千代田設備

「若手技能者を育成する21世紀の取り組み」

【取り組み概要】

CTSは、2001年当時の社長である佐藤袁也(現相談役)が発起人及び校長となり開校している。配管、安全、修身など各分野で専任の社内講師を揃え、運営事務局によって推進されている。工業高校卒業生と比較すると、知識や技能面で差のある普通高校卒業の新入社員の早期育成に役立っている。事実普通高校卒業者の技能五輪チャンピオンも誕生している。特徴の一つとして、同一カリキュラムを使用することで、新入社員のコミュニティが生まれていることが挙げられる。また専門知識や技能と同等に、仕事に対する意識や人間教育に重きを置いていることも特徴で、「人や周囲への気遣い、感謝が出来る」・「素直に物事を受け止め、反省が出来る」といった素養面、「元気な挨拶や返事が出来る」「履物を揃える」といった躾・マナー面を徹底して指導・教育している。学びを実践かつ習慣化するためには継続した取り組みが必要であることから、並行して毎週一回行われる全体朝礼の場で、年間50単位合計50時間を人間教育の時間に充てている。これは全従業員に対して行われるもので、会社の教育理念として、「技術者の前に人間たれ」、「お客様から好かれるためには技術者の人柄が一流でなければならない」を掲げるこだわりの一つである。

技能競技大会は、熟練工を対象とする「技能グランプリ」と、満年齢23歳以下の若手を対象とする「技能五輪」がある。技能競技大会は、普段の仕事では直接味わうことができない勝負の世界であり、同業他社の社員との真剣勝負である。勝つことの難しさ、喜び、他への感謝、負けから知る悔しさ、自身の未熟さなど、他では得難い大きな気づきを得ることができることから、同社では長年、技能競技大会を「他流試合を通じて心技体を鍛える教育の場」として活用してきた。技能五輪選手の育成強化は、2004年から始まっている。熟練工としての技能を競う技能グランプリ大会に、従業員が数多く出場しており好成績を収めている。1983年一人の社員が腕試しに、「技能グランプリ」に自主的に参加し、準優勝したことから始まった。そのことは社内の士気を高め、相互啓発的に参加者が続き、1993年に優勝者が出てから6連覇するなど、2003年までに8名の日本チャンピオンが生まれている。

「技能五輪」へは、新卒採用が主体となり若手社員が増えた1989年から参加し続けている。2002年には、CTSの第1期生が全国大会で優勝し、スイスで開催された国際大会に出場し8位(敢闘賞)となった。これがひとつのきっかけとなり2004年、技能グランプリ・チャンピオン8名を中心とした技術チーム「千輝会(せんきかい)」が発足している。「自分たちの技能レベルは世界に通用する」「世界で勝てる技能エキスパートを育てたい」と、若手技能者の世界水準の技能を目指して育成活動が始まった。大会優勝者には入会証である会オリジナルのジャンパーが与えられる。入会はチャンピオンのみという狭き門が、若手技能社員たちの目標となっている。他社、他の自治体などがベンチマーク、視察に訪れている。現在では、技能グランプリに出場し優勝した一級技能士など20名ほどが、技能五輪で指導育成する側となっている。技能検定や技能競技大会に出場する従業員への指導を行い、将来を担う技能者の育成を支えている。技能競技大会の勝利はテクニックだけではなく、全人格で勝ち得るものであるという方針のもと、心技体を重視したトレーニングを施している。選手選抜方針、選手の育成計画・育成体制、大会での戦術などの議題検討も主体的に運営推進している。

「社員成長制度」プロジェクトは、2004年、現社長である佐藤信久(当時専務)が発起人となり、それまでの経営トップの一元的な人事評価体制を見直すことをきっかけに発足した全社的プロジェクトである。現状認識のために行った社員アンケートでは、「昇給の決定プロセスがよく分からない」・「年功賃金で本人の頑張りが反映されない」・「成果や具体的な行動ではなく、人を見て評価しているのではないか」といった不満が少なからず聞かれた。離職率は1998年の16%を最大に、平均10%台で推移しており、2001年に入社した6名の新入社員(CTS第1期生)も3年以内に5名が退職した。制度構築に9ヶ月かけたのち運用を開始した。検討ならびに運営メンバーは工事、営業、設計、事務など、社内を横断するすべての部門の幹部から編成され、当初は6名であったがその後12名まで増えている。「自分たちの仕組み」だという感覚と、「よりよく」という感覚で、現場を巻き込んで人事等の委員会を回し続けている。

新潟で水道工事業を行っている千代田設備は、公共施設・工場・店舗や一般住宅まで数多くの水道工事のなかで、給水・排水を行うパイプの配管工事を主力事業としている。50年を超える歴史を持ち、同社が敷設した配管パイプは250万メートルにも達する。同社は設備工事業の業務の中で重要な技能の強化とともに、施工や管理力を強化することで経営体質の強化を図り、戦略的に技能人材を育成している。現場管理能力を短期間で確実に習得させる企業内職業訓練校の設立や、技能五輪への挑戦、社員成長制度などにより、主体的に作業現場の状況を把握し、的確に対応していく力をつけようと活動している。また、技能労働者のなり手が減少気味の業界において、育成の活動が広く知られることで、人材採用や定着にも役立っている。育成が経営活動と結びついている事例である。

KAIKAポイント

同社は、若手社員のモチベーションを上げ、仕事に対する意識や技能を高いレベルで平準化し、「技術一流」・「人柄一流」の人材を短期間で養成する仕組みを作り、全体のレベルの底上げを図りたいという思いから、21世紀にふさわしい組織的かつ計画的な取り組みをスタートさせている。

第一に「千代田テクニカル・スクール(以下CTS)」は、2001年に職業能力開発促進法により県の認定を受けた企業内職業訓練校※1である。新入社員を対象に年間96時間のカリキュラムで教育訓練を行う短期課程の設備配管科で、初級レベルの配管知識・技能や安全、機械工具などの専門技術や知識を習得させている。新入社員を現場での作業が可能な一定のレベルまで成長させ、全社的な技能レベルの底上げが図られている。現在まで継続的に15期実施され、卒業生は94名に及んでいる。

第二は、技能五輪大会※2への参加による社員(選手)の強化育成である。入社3年目までの従業員から選考された選手たちは、徹底的にトレーニングを行い、大会に挑んでいる。本人の技能水準の向上だけではなく、コーチを含めた周囲の指導方法も確立され、競技大会への参加を通じて、業務の勘所を深く理解する機会となっている。国内だけではなく、国際大会でも優秀な成績を収めている。

第三は、「社員成長制度」プロジェクトの徹底である。評価と昇進・昇格、報酬、退職金、育成の各制度をリンクさせた取り組みで、社員一人ひとりのやる気を高め、成長を促し、会社の業績向上を目指して2004年に構築された制度である。以降、管理者などの主なメンバーは月に一度、制度全般の運用状況や基準の見直しを中心とした改善を行っている。採用や教育、福利厚生など人事労務面の多岐にわたる問題や課題について社外の専門家を交え議論している。社内に人事専門部門をおいていないため、プロジェクトが人事機能を補っている。またジュニアボードの役割も担っている。

設備工事業のみならず建設業界では、会社の規模がある一定水準になると、現場で作業する職人を自社で保有せず、外部から調達する形態-「直手(じかて)」を持たない会社-が多い。特に経営審査を重視する官公庁などの工事ではその傾向が強い。施工会社という専業的な取り組みから商社的な機能転換で、規模を確保しつつ品質を維持強化するためにとられる一般的な発展形態でもある。千代田設備は、「大事な仕事を下請他社に任せきりにすることは、お客様に対して失礼である」・「自ら汗を流し、最前線の現場で責任を持って施工することこそ真の責任施工である」という考えから、現場で働く職人はすべて正社員としての直接雇用かつ自前での育成にこだわり、自分たちの手ですべてを施工する直施工体制をとっている。「直施工体制」は、一人前になるまで最低10年かかるといわれる設備工事業の職人育成に手間暇がかかり、人件費負担の面から経営リスクが少なくない。しかし創業以来50年、一貫して一流の職人づくりに取り組み、グループ全体では200名の高度技能を保有する職人集団を形成している。一人ひとりの職人が全責任を持って、施工・現場マネジメントからお客様打合せまでの一連の業務を受け持つことで、生産性とお客様の満足度ならびに信頼度を同時に高めている。

審査委員会コメント

創業者である相談役から二代目の現社長まで脈々と受け継がれてきている「お客様から受けた仕事は最後まで自分の手で直接仕上げる!」という思想が深く社員に浸透している。「社会のライフラインを守る仕事をしているのだから、常に顧客優先、現場優先なのは当たり前」という価値観が技能オリンピックに参加した若手からも語られた。多くの企業で見られなくなってしまっている現場感がしっかりと生き残っている。秘訣の一つは徒弟制とCTSの様な体系的な訓練機関のハイブリッドにあると考えられる。徒弟制での直接の現場体験は、まさに自分の振る舞いが直接はね返ってくる場として若手の責任感を育んでいる。CTSは現場で体験した学びに人間としての成長、さらなる技術習得を加える場になっている。各個人の現場体験と集合での研修の両面で支えている仕組みが、悪い意味で内にこもった職人ではなく、技能を仕事に転化して成果を上げることのできる仕事人の育成に貢献している。

技能五輪のメダリストは、専門知識や技能だけにこだわらず、仕事人としての教育、人間としての育成が果たされている。また、奢ることなく幅が広がったというような意識で仕事に取り組んでいる。業界的にも、職人不足、職人の質の低下が懸念される中、技術と仕事人としての品格を兼ね備えた人材を育成していることは社会貢献としても大きい。一人親方による徒弟制の多いこの業界で、「社員として雇用し、責任感を身につけられる現場につかせ、仕事人として成長させる」。このモデルは古い体質の業界を変える力を秘めている。会社としてもよりいっそうの規模の拡大、業態の拡大を図り、業界の古い体質を変えるドライバーになると考えられる。

この業界で、技術者を組織的に社員として抱えている事例は非常に少ない。経営哲学のようなものを維持しているのは、創業者の影響も大きいと考えられる。また経営を中長期で考えることが基本であるファミリービジネスであるという点も見逃せない。創業者が健在で薫陶を受けた世代が組織にいるときには、想いが見える状態で、理解して行動にもつながりやすい。それを社風にまで落とし込んで社内外に継続性のある影響を保持・活用していく広がりも注目される。

ページトップへ戻る