株式会社丹青社 事例にみるKAIKA経営の実践

KAIKA Awards 2016ではKAIKA大賞2組織、KAIKA賞4組織、特選紹介事例3組織を選出いたしました。
こちらのコラムでは順次事例をご紹介しています

KAIKA賞 株式会社丹青社

「人づくりプロジェクト 自ら育ち、共に育ち続ける組織・場づくりの実践」

【取り組み概要】

丹青社は、古くは大阪や筑波などの万博パビリオン設計ならびに運営、博物館などの公共施設や商業施設の展示や掲示サイン、オフィス空間の設計施工などで国内有数の実績を持つ会社である。

本プロジェクトは新人社員教育の一環として2005年より実施している。入社直後の基礎研修を終えてから配属までの期間に行われる。プロジェクトは、4月下旬にはじまり、実際の仕事でも想定される2カ月後の6月末が納期である。まず社内外のデザイナーが、新入社員に対してスケッチやアイデアをもとにプレゼンテーションを行う。その内容を実現すべく2〜3名の新入社員とチームをつくる。そして、プロダクトのスケッチやアイデアをもとにしたコンセプトワーク、実際に形として具現化していく意匠デザインワーク、品質・予算・工程管理などの作業など、仕事を進めるうえで大切なことを経験していく。完成後には、社内講師らとともにプロジェクト活動を振り返り、得たこと、学んだことをまとめ上げ、役員に対して発表する。

会社が日々行っている新しい何かを生み出す仕事には、なにが求められるのかを頭だけの理解ではなく、実践を通じて理解していく。新入社員が創る水準ではなく、世の中で通用する水準を期待している。世間があっと驚くようなコンセプトとデザインそして意味合いを発信しなければならない。それだけに壁にぶつかり、もがき、無から有を生み出す苦しみを味わう。周囲が一流の関係者であっても、その意見をとりまとめるだけではなく、自分の思いをぶつけてつくり上げることで、仕事そのものを理解していく。100日間の中で仕事に必要な作法を学び、仕事ができる人に早急に変身させていく。多種多様な人材の考え方と能力を活かしながら、うまく結び付けて課題解決や価値創造を果たしてくという一連のプロセスを体験する。このプロジェクトの目的は、ものづくりも大切な要素だが、人との関係の築き方、関わる人の能力を引き出し組織としての最大限のパフォーマンスをつくり出す方法、仕事に向かう姿勢など、仕事に取り組む上でもっとも大事なことを学ぶ点である。自身や自社、他者との関係性、なぜその仕事をするのかという職業観や責任感も問い直すことともなっている。

KAIKAポイント

個人の成長の視点としては、新入社員に対する、まさに実践による研修であるということがあげられる。新入社員に対する研修は、どの会社でも行っているところだが、意識教育か実務の一部を体験させることが一般的であり、基礎教育が終わると現場OJTに委ねられ、結局は特定上司の指導力に左右されている。丹青社での取り組みは、会社の仕事の取り組みの本質部分−自分の力だけではなく、他者と協力して、期限内に一定水準のものを創り上げるためのチーム運営力−を切り取って、2ヶ月間で体験させるプログラムである。無から有を生み出すための社内や社外協力者との関わり方を疑似体験ではなく、実務として体験せざるを得ないようにしている。

組織への展開視点としては、個人の力を深めるだけではなく、そもそもの仕事の本質である他者の力を活用しながら理想となるものを創りあげる、創発的なチーム運営プロセスが社外を含めて体験できることがあげられる。定型業務をこなすことが主流の仕事ではない丹青社であるが故に、プロジェクトに関わるメンバーが互いの理想となるところを真剣に議論しながらつくり上げる。共通体験を通して出来た仲間やその絆は、今後組織で仕事をしていく上での強固な結びつきとなる。さらに仕事の一つの基準としての体験となり、阿吽の呼吸に近い部分まで組織を仕立てていく方法の習得プログラムとして機能している。

社会とのつながり視点としては、活動の成果としてのプロダクトをオープンな公開展覧会で発表している。来場者からの反応を直接確認できるようになっている。制作の意図、プロセスについて講演・ワークショップ的に意見交換することで、制作者と利用者とそれをつなぐ人の同心円を一体化させ、新しい視点を生み出し、今後の創造活動につながり、浸透させるのにも役立っている。個人と組織と社会の関係性をつくり出す場と道具としての役割を果たしている。さらにデザイナーや協力会社等ビジネスパートナーの発掘や関係強化、ビジネス機会創出といった展開も生まれている。

審査委員会コメント

10年以上に渡り取り組まれ、社員育成の土台に加え、デザイナーや協力会社、外部機関との関係構築の機会としても年々進化を遂げている。実務体験型研修は他社でも見られるが、デザイナーからの本気の提案、ビジネスマッチングを使った協力会社発掘とネットワーク化、完成品の公開展示機会があり、実際の製品化事例も生まれている点で、力強さ、ユニーク性とも高い。学校や企業との連携を広げており、社会全体での新たな価値創造に寄与しているように見受けられ、プログラムの成長発展余地がある。

役員プレゼンや実際の展示で、成果物の結果だけではなく、何のためにこの仕事をしたのかが求められることは、社会との関係性を問い直す機会でもある。それは会社にとっても社外との関係性を更新していく機会であり、社外関係者の広がりが蓄積され続けていることも優れた点である。

新入社員自身の成長を組織的に支える風土が根付いていることと、本プログラムを通じて社外関係者の発掘や信頼性獲得など、実務に好影響を与えるサイクルが起こっている。

もちろん実務経験と、仕事の本質を考えるという両面から、新入社員の成長機会としての有効性は高い。入社早いうちから、「なぜ、それをやりたいのか?」、「何のためにそれをやっているのか?」を講師が新入社員に問いかけ続け、真剣に仕事に向き合うための対話を行っている。そのことを通じて、思考と内省を進めることが出来る有意義な機会となっている。この研修の存在を知って新卒者が応募する事例もあるというし、新入社員が楽しみながら取り組んでいる点も見逃せない。

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