日産自動車株式会社  事例にみるKAIKA経営の実践

KAIKA Awards 2016ではKAIKA大賞2組織、KAIKA賞4組織、特選紹介事例3組織を選出いたしました。
こちらのコラムでは順次事例をご紹介しています

KAIKA賞 日産自動車株式会社

「奥会津・EV移動販売車プロジェクト」

【取り組み概要】

先行車両開発部のメンバーが起案し、社内外の関係者と連携して活動が始まっている。東京からだと東北自動車道の郡山ジャンクションで磐越自動車道に乗り換え、会津坂下インターチェンジから国道252号線経由で20分ほどにある奥会津三島町での取り組みである。三島町は福島県の西部に位置し、尾瀬を源流とする只見川沿いにある。冬は積雪が2メートルを超えることもある山間の町である。

この町で、商工会や会津大学の学生たち、地域住民など50名余りに対して、未来のEV社会についてのプレゼンを行い、社会とEVの関わりについての情報共有を行った後、アイディアを創出するところからプロジェクトは始まった。EVが地域での活動にどのように役立つのかについては大枠での理解はあったものの具体的には不透明だった。

イベントを通じてEVを体験することで活用の可能性について理解を深めるというコンセプトが生まれた。日常的な買い物弱者をメインターゲットとした移動販売車、電気がない場所での各種イベントの電源、そして災害時の電源としての移動販売車をつくるアイディアが固まった。移動販売車が最初から想定されていたわけでなく、地域おこし協力隊の方の、「このまちをハッピーにしてください」という抽象的な要望と発言から生まれている。アイディアを実現化する段階で、実際に車両試作が必要となり、総合研究所の実験試作部に話が持ち込まれた。設計図どおりにつくるのではなく、エンジニアが実際に現地に赴き、視察や生活観察、地域住民と交流する中で、必要機能を理解してEVを試作し、実際に地域の人々に活用されている。さらに活動は継続され、多くの民間企業を巻き込んでアイディア検討会が繰り広げられ、活動規模が拡大している。また他の地域からも同様な活動に対する引き合いが生まれている。小さな活動から始まった取り組みは、大きく成長している。

KAIKAポイント

5年から10年先のクルマを構想する研究・先行開発部門所属のエンジニアたちは、日々の活動の中で電動化・高齢化を社会トレンドとして注目している。EVの利活用の方向性を模索する中で、ガソリンスタンドが閉鎖され、給油するのに何十㎞も車を走らせなくてはいけない過疎地域であり、高齢化が進行する奥会津に元々縁があったこともあり、地域の核となる人や組織と取り組んだ。

地域で何が求められるのかということについて、頭の中で考えるだけではなく、実際に地域に赴き、交流を重ねてEV試作と検証を繰り返し、一般顧客がクルマを使用する生活場面を観察することで、具体的なものづくりを行い、2015年からの3年計画を実行している。アイデアソンを行い、いくつかの仮説を元にした、実際に現場で役立つクルマづくりを短期で実現している。

過疎化と高齢化が進行し、中山間地域であることにより、発生している買い物弱者に向けてのEV車を開発するなど、通り一辺倒な車ではなく、実際に役立つクルマづくりを行っている。さらに活動を振り返ることで、地域やテーマの広がりが見られる。一般的な車作りの場面では、組織の役割や階層がはっきりしていることで、技術者や研究者が一般顧客のニーズを直接見聞きする機会は少ないが、この活動では直接関わることでニーズの拾い出しを行い、必要な機能を理解して開発に取り組んでいる。

審査委員会コメント

EVという様々な用途への応用可能性のあるものが活用される世界を、地域を特定し、一緒に考え、試行錯誤する過程を通じて、一歩一歩地道に広げて行こうとする姿勢は、開放系のものづくりエンジニアのスタンスとして評価できる。川上工程から川下工程まで顧客や課題視点で商品・サービスを考えられれば、会社としての強さにもつながる。

通常、大企業では組織の壁・人の壁・予算の壁などが影響して、こういった活動は取り組みにくく、成果が生まれにくい。更に時間までかかるが、本プロジェクトはボトムアップ、横断的部門構成を成し遂げ、成果を創出している。

また、会社としては奥会津という地域にEVの開発コミュニティを構築しつつある。過疎化・高齢化が進む地域のへの対策は待ったなしの状況であり、ビジネスが持つ強みを活かし、社会課題を解決していく取り組みには社会的意義がある。今後、EVの用途開発をする上で、実際の地域社会との新しい関係を構築したという意味で評価出来る。用途開発だけでなく、次世代のクルマづくりにも応用が出来ると思われる。

エンジニアが現地に入り込み、一緒になってニーズを実現する試作・実装の経験は、通常の業務では体験することが難しく、経験のイノベーションを起こしている。ワークスタイルにも影響を与えると思われる。使用用途が思い浮かぶ対象者の課題解決のために没頭できる機会が生まれたことは、エンジニア本来の力を引き出す、重要な働きがいのある、社会に貢献感が実感できる仕事環境づくりでもある。

今後、奥会津発のアイディアから世界へ普及するものも生まれると思われる。過疎や高齢化・災害などの社会課題を取り込んだ価値という具体事例が生まれることが期待できる取り組みである。

ページトップへ戻る