有限会社原田左官工業 事例にみるKAIKA経営の実践

KAIKA Awards 2017ではKAIKA大賞2組織、KAIKA賞4組織、特選紹介事例7組織を選出いたしました。
こちらのコラムでは順次事例をご紹介しています。

KAIKA大賞 有限会社原田左官工業
「次世代の左官職人育成プロジェクト」

KAIKAポイント

原田左官工業所は、総合湿式施工(左官だけではなくタイル張り・防水施工・ブロック組積工事など)に取り組む会社である。左官仕上げは、土・石灰・ワラ・砂の組み合わせにより様々なデザインや表現が可能であり、建物や内装の質を高め個性を活かすことができる。ただし仕上がりや施工の段取りが天候に左右され、また職人の技量が出来映えに大きく影響を与える仕事である。また一人前の職人に育てるのに時間がかかる点や、仕事に取り組む職人のほとんどが男性である点、左官仕事のアピール不足などが業界の課題となっている。施主からすればコストや工期が読みにくく、現在では外壁左官は工場で生産されたパネルや合板、内壁左官は工業製品である壁紙やビニールクロスが主流となっている。

左官仕事に触れる機会が減少することで、左官仕上げを理解することが出来にくくなる状況を解消するために、本社の一階にはショールームを開設している。様々な左官仕上げが閲覧できる左官ライブラリーと左官仕事のサンプル作成室を併設しており、お客様のイメージを形にする提案型左官の拠点として活用している。原田左官工業所は、経営理念に「夢とロマン」を掲げ、OJTによる作業トレーニングと社内講習会を組み合わせることで、4年間で未経験者である見習い工を職人へと育て上げる教育訓練を実施している。左官施工についてはモデリング訓練やOJT、OFF‐JTの訓練により基本作業を習得させる。またタイル張り工の育成については専門校への派遣で技術習得させる。防水施工・ブロック組積については社内検定制度を採り入れ、4年間で左官工、タイル張り工の職人に仲間入りさせる。

女性のキャリアについては、働きやすい環境として更衣室・休憩室などを整えるとともに、育児休暇制度を取り入れ結婚出産後もキャリアを活かせる仕組みを作っている。また定期的に社長と面談して、個人目標とキャリアデザインを話し合う機会を設けている。その他、ブラザー・シスター制度を導入し、先輩が定期的に見習い工と話をする機会もつくっている。

取り組み概要

たとえ左官が工業製品と比較して味わいがある仕事だといっても、現実的に仕事が減少し、左官職人も減少し高齢化している。マーケットが小さくなるということは、仕事の機会が減少することであり、施主が左官仕事を知らないが故に、仕事が減少する負のスパイラルとなる。設計士・工務店・施主たちは左官についてほとんど知らない。また、職人は自分の技術をアピールするというのが苦手で、仕事が減少し技術が廃れていった面もある。事業を継続していくためには、左官の仕事を増やし、職人を育成していかなければならない。

原田左官工業所では、主要事業である左官という仕事を魅力的にし、働いている人に安定した生活とやりがいを持ってもらい、未来に続いていける企業になるという思いから、「左官という仕事を増やす」、「左官で働く人を増やす」、「左官職人を育成する」という3つを重視して取り組んでいる。

左官という仕事を増やすために、2015年に本社一階にサカンライブラリーというショールームを作り、左官を体感できる場所としている。毎月平均20組の来場者があり、左官を知る機会となっている。建物や内装工事を主導する設計士が理解、体感そして納得することによって、住宅の仕事だけでなく、有名コーヒーチェーンや世界的なアパレルのブランドの店舗にも左官仕上げが取り入れられるようになった。さらにホームページにより新規顧客開拓に力を入れている。エンドユーザーから直接問い合わせを受ける機会が増えたため、商談成立割合が向上している。さらに工事原価管理システムにより、収支や人工の計算を素早くできるようにした。そして左官で働く人を増やすために、一般社団法人日本左官業組合連合会で作成したPR誌づくりに参画し、工業高校などにアピールしている。また自社ホームページを活用し、2016年3名、2017年2名の新卒採用を行っている。左官職人を育成し、経営理念を理解しビジョンを共有できる職人集団で良い仕事をするため、見習い期間を4年に定めて1年ずつキャリアップする計画的職人育成の仕組みを運用している。また左官の同業者で、東京左官育成協会という私設の訓練所を作り、新入社員を共同育成することも行い同期意識を高めている。

一般的な職人の指導は、背中を見て覚えろ・盗めという方式なので、なにを学べば良いかもわからず、下働きだけを何年も行うことで、仕事に嫌気がさしてやめてしまうことも多い。そこで入社後1ヵ月は会社倉庫を練習場にして基本的な見本の動きを真似して学ばせるモデリングを行う。次の半年は先輩職人を教育係に付けて左官仕事に慣れさせる。2年目はひとりで現場に行く機会を与え、施主への挨拶など先輩から指示されてやっていたことを自分で考え判断する場面を経験させる。3年目には現場リーダーとして責任とプレッシャーのなかで仕事する経験を積ませていく。3年目から4年目には左官技能士取得を目指させる。受験料は全額会社負担で、1級合格者には5万円、2級合格者には1万円の報奨金を支給する。そして4年目には見習い期間を経て職人の仲間入りを祝う披露会を開催している。

審査委員会コメント

高齢化が進み、職人が激減している左官という仕事を魅力的な職業にし、若者・女性を採用し、次世代の職人として育成することで、左官の技術を伝承している。そして伝統的な産業において自社の仕事をしっかりと整理・理解しており、現代的なマーケティングを活用している。

若者の職業観が失われている中、若者が仕事で何かを目指して一生懸命になる、といった起点になると考えられる。ロボットができることと、人間がやることの境目という文脈で考えると価値が高い。調理系や介護系といった職人技による業務遂行がある他業界への広がりも期待出来る。こういった業界では、伝道の仕組みがあるのか、属人的なノウハウで個人としては優れたものだが組織としては非効率なものになるかの分岐点となる。 旧態然とした建設業界も近年、様変わりを続けている。その一つの流れが新築からストック重視という市場変化である。建築業の工業化・プレキャスト化・省人化が進んでいるが、左官という仕事を知ってもらうことで均一な住宅・お店作りだけでなく、手仕事の味わいのある空間が出来るということを再認識されはじめている。市場規模自体が縮小する中でインテリアのデザイン性や高機能性など、これまでになかったユーザーニーズの多様化・高度化を好機と捉え、原田左官工業所は業績を伸ばしてきている。PR活動を通して、顧客・業 界の仲間・社員を集めつつ、標準化と差別化という一般的には相反する戦略を同時に実現してきた点がとても 興味深い。

学習する組織という観点では、「モデリング」という言葉使いが特筆すべきことだろう。教育の内容よりも学び方を学ぶことが大事という基本方針の下、見て・聞いて・やってみて学ぶ、いわゆる経験学習を重んじている。そして、この技能とも呼べるものをあらゆる業務にも応用されていると思われる。

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